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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第90回バトル 作品

参加作品一覧

(2017年 1月)
文字数
1
石川順一
1000
2
文月
1078
3
サヌキマオ
1000
4
ごんぱち
1000
5
アレシア・モード
1000
6
岡本綺堂
1178

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詩日記
石川順一

 この世は詩で出来ているような気がする
 そう考えている私は毎日詩日記を付けている。
2011年4月29日。くしゃくしゃになったシャトーの模型があった。胡乱なロックミュージシャンを配して、国家レヴェルの忍者が暗躍する虚構ワールドであった。作る者が登る。登る者は刀の心。日当はもらえない。馬が走り出す。幻の馬が。青い馬など存在しないと言っていたヒトラーの退廃芸術討伐。リトルワールドで馬を見た。大きな馬。大島の馬はどうだったか。祖母との記憶。幼き頃の記憶へと遡行する。祖母との写真。世界を睥睨する我。先頭に立たされて戸惑っている訳ではないようだ。「野生の馬」と言う合唱曲。中学一年生の頃に歌ったような気がするのだが、違うような気もする。「黒い馬」だったような気もするのだが恐らく「野生の馬」でいいのだろう。イオとはインプットとアウトプットと言う英単語の頭文字をとったもの。憲法、刑法、刑事訴訟法。これらの司法試験論文問題参考書。旧司法試験。参考書の出版会社「イオ」。インプットとアウトプット。InputとOutoput。IとOでIO、そしてイオ。日本語だけで考えるとイアに成ってしまうとは神の代言人の発言。日本語のイとア。イア。慰安。カナダ人のイアンブルァーを想起する。日本の大学に留学したジャーナリスト。
また別の日の詩日記には詩作の為のイメージが書き込んであった。
2016年1月18日(月)。詩作スケッチ。フルス(Fluss)(ドイツ語)(川)・・・字が読み辛いのであきらめる。
2015年8月11日(火)15時15分13秒(これは私がこれから転記しようとする転記元の短歌サイトにおける投稿時の年月日時間であって私の日記のそれではない)
玉砕も散華もいまだわが裡にいくさのかげを曳きずる言葉 橋本喜典
津波跡見てもどりくる駅前にどつと並べるくれなゐのタン 篠 弘
いかように教えたのだったか教室で小林秀雄の「無常ということ」 小林峯夫
来て知りし嬉しきひとつ白蓮の晩年の書ののびのびとせり 大下一真
紫陽花の花の重たきかたまりや宵かたまけて群童のごとし 島田修三
「戦争を知らぬ」輩となる部分バドワイザーをハノイにて飲む 柳 宣宏
焼香の客に頭を下ぐるたびみしみしと首のあたりが鳴れり 中根 誠
のろのろとゆく教習車に苛立てる我はも時間(とき)に流さるる人 柴田典昭・・・・・
 もうこの辺で切りを付けようと思う。私の詩日記はこれ終わりにします。短歌も詩として扱いました。
詩日記 石川順一

ご神鏡
文月

青く抜けるような空の彼方で、烏が数羽旋回している。
緋袴を履いた巫女は黒い羽ばたきに視線を据え、その場所を目指していた。
カァ、カァという声がけたたましく響いている。
巫女が辿り着くと、そこは一件の民家だった。
頭上の烏を追い払おうと、男が地面の石を投げている。
近くに立つ女は眉間に皺を寄せ、腰にしがみ付く男の子の頭を撫でていた。
男の子は怯えているようだった。
巫女は静かに親子に近づくと、凛と澄んだ声で命じた。
「山の祠にあった物を元の場所に返しなさい。」
その言葉に男は石を烏に投げる手を止めて、巫女を視界に収めた。
「山の神が嘆いています。」
続けて巫女が言うと、男は怒鳴りつけた。
「なんのことだ!?俺たちは何も盗っちゃいない!!」
それに被せるように女も言う。
「そうよ!言い掛りはよしてちょうだい!」
すると烏が一羽、カァアと大きく鳴いた。
「こいつッ!!」と男が再び手に取った石を構える。
「やめなさい!」
巫女は鋭く叫ぶと、人差し指と中指を立てた右手を烏と男の中空に線を描くように振り抜いた。
鋭い風が吹き抜け、男の放った石が烏に届く前にバラバラに砕け散る。
「何するんだ!!!」
男は憤ったが、巫女は冷静に語った。
「烏達は、山の神の使いに過ぎません。」
それに対し、女が声を荒げて叫ぶ。
「神なんかいるもんか!!」
その陰で男の子が震えて巫女の方を覗き見ている。
巫女は男の子の目が落ち着かなく泳いでいるのを確認した。
巫女は男の子に視線を合わせて問う。
「貴方ですね。ご神鏡を取ったのは。」
男の子の身体がビクンと跳ね、右手で自身の袂を強く握った。
袂からは僅かに陽光を反射させる鈍い光の物体が見て取れる。
だが、それに気づかず女は叫んだ。
「うちの子がそんなことをするはずないでしょう!?」
男がそれに声を重ねる。
「一体なんなんだ、あんたは!?」
巫女はそれには答えず、男の子を凝視したまま、耳を澄ました。
やがてキィ、キィという声が風に乗って聞こえてくる。
「早く元の場所に鏡を返しなさい。山の神の僕は烏だけではありません。」
巫女は男の子に視線を固定させまま急かす。
男の子は何か言葉を紡ごうとしたが、それより早く母親が口を出した。
「うちの子を盗人扱いしないでしょうだい!!」
「まったくだ!この余所者が!!!」と男も巫女に敵意を向ける。
男は怒りのままに再び手に石を持つと、それを巫女に向かって投げようとした。
しかし、逆に男の背後から投げられた石が、男のこめかみをかすっていく。
「誰だっ!?」
男は怒り乍ら、石が投げられた方向を振り向いた。
そこには、石を手にこちらを睨む20匹を超える猿達が待ち構えていた。
ご神鏡 文月

カマトト(もしくは俎上の人)
サヌキマオ

 酒を飲んで記憶が飛ぶのはよくある話で、飲み屋にいたのにいつしか身体は電車で一時間かかる実家の前に佇んでいたりするのだけれど、今日はバイト先のコンビニの新年会から飛んで、四つん這いで見知らぬ冷蔵庫を眺めていた。冷蔵庫だ、と判ったのは、目の前の壁にたまにポストに投げ込まれる水道トラブル一一〇番、みたいなマグネットの宣伝が貼ってあったからで――って、でかいなこのマグネット!
「あ、う、動いた」
 女の声がしたので振り向くと、脱色した髪を無造作に伸ばしたパジャマにどてらの女が、世にも気の触れた笑みで俺を見ている。
「――だ、誰?」
「う、動いた。あの、その、へへ、動いた。ふへへ、ふへへへ」
 一瞬静かになって、女が喉を鳴らす音が聞こえる。思わずぞくっとしたが、それもそのはずで、俺はびしょ濡れの巨大な木の俎板の上に、スフィンクス宜しく四つん這いになっていたのである。
「あ、やまださんですか?」
「え? はい。山田ですけど」
 イヤーッ! というのは歓喜の声だろう。俺は軽々と鷲掴みにされると、そのまま女の頬に押し当てられ、激しく擦り付けられる、
「やまださんやまださんあああ大好きですやまださんやまだヲヱヱッ!」
 と思いきや元の俎板に叩きつけられる。
「うゎなんぢゃこら魚臭っ! 手ェ臭っ!」
 仰向けに転がされた体勢から仰ぎ見ると、女は死にそうな形相で両手をクンクンと嗅いでいる。
「オイやまだぁ! カマボコってのは魚なのかよォ!」
「あ、はい。そうです。魚のすり身」
「畜生っ云うとおりにしてやったらよゥ……カマボコが魚だとか、アタシが食えねぇじゃねえかよゥ……」
 女は台所の床に座り込むとめそめそと泣き出した。声をかけようかどうか、俎板の上から観察しているとふいに思い出すことがあった。
「お姉さん、もしかして、コンビニのお客さん?」
「ぞうでずぅ、やまださんの近くに居だぐでぇ、そしたら髪の毛採っでぎたらやまだざんを手元に置いでおげるっで店の人がァ」
「店の人って、どの店の?」
「あのォ、ベデン商会の人がぁ」
 ベデン商会というのがどんな店かは知らないが、人型に切ったカマボコに髪の毛を植え付けるとその人の魂が宿るという呪術である。「もう魚臭い人なんか要らない」という女に俺こと人型カマボコから俺の髪の毛を(いつの間に手に入れたんだ)抜いてもらうと世界がぐるっとし、気がつくと背丈の三倍もあるような天狗の面の前で佇んでいる。
カマトト(もしくは俎上の人) サヌキマオ

ペット
ごんぱち

「拾ったところに戻してきなさい! 世話なんてできないでしょ」
 母の言葉に身をすくめながら、少年は箱をしっかりと抱きかかえる。中には、生まれて数ヶ月と思しき仔犬がうずくまっていた。
「ちゃんとするから!」
 少年の涙声が玄関から家の中まで響く。
「犬なんて毎日散歩が必要なの。大きくもなるし、吠える声はものすごく大きいの。しつけだってしなきゃ、人に怪我させる事もあるの。避妊手術とか風邪ひとつひいたって人間よりもお金がいっぱいかかるのよ!」
「ゼッタイ、ゼッタイするから! ゼッタイめんどうみるからぁ! おこづかいもいらないからぁ! ねえー、ねええ」

「――ジョンの散歩どうしたの」
 母の言葉を背に、少年はコタツにあたったまま、テレビの前から動かない。
「今日は休みだからいいのー」
「これで何回目!? 犬はそういう訳にはいかないの! 曜日も何にもないの! 毎日ちゃんと世話するって言ったでしょ!」
「ジョンだってたまには家にいたい日だってあるよ」
「それにあんた、お小遣いいらないとまで言ったわよね?」
「うるさいなぁ、知らないよそんなの! いつ言ったの?なん時なん分なんびょう? さんぽなんか、お母さんがやればいいじゃんかぁ!」
「じゃあジョンを捨てちゃってもいいの!?」
「いいよ、あんなのもうかわいくないし! あ、そうだ、だったら、つぎはアライグマかおうよ」
「あーーんーーたぁああねえええ!」

「――という展開がまあ、あっちこっちにあると思うんだよ、蒲田。尚、この際、親のしつけが悪いという指摘は行わないものとする」
「まあそりゃそうだな、四谷。それを踏まえての、捨ててきなさい、だからな。親もそこで折れるなとは思うが、まあ」
「そういう子供的無責任さを棚に置いて、大人は汚いだのずるいだの嘘つきだの、一体どういう神経をしているんだ! 大人は嘘つきじゃない、間違いをするだけなんだ。子供こそ嘘つきで汚くずるいじゃないか! 幼さを許される理由にするのであれば、命を弄ばれた犬の方がずっと幼いではないか! 許しがたし! 許しがたし子供! 私は子供に生まれなくて本当によかった!」
「お前だって子供時代あったろ、描写的な意味でも。そもそも何と戦ってるんだ、お前は」
「だからオレは、この拾って来たムササビを、大事に育てる事を宣言するものである!」
「……野生動物を、飼うな。それからムササビについては『動物のお医者さん』を読め、直ちに」
ペット ごんぱち

除夜
アレシア・モード

 星々の渦の中に、太陽と呼ばれる一つの恒星が揺らぎ、周囲に幾つかの小天体が周る――他に行き場がないから周る。そこに起点はない。
 小天体はそれら自身、太陽と関係なく自ら回る。出来た時に回っていたから今も回る。地球は太陽を周る間に365回ほど自転する――そこにも起点はない。
 まるでタコ焼きのように。

「タコ焼き?」
 例えが解らない。私――アレシアは訊き返したが、彼はまるで無視した。先刻から私の意識に付き纏う宇宙人だった。冬の夜空の星の下、じっと初詣客の列に並んでいると変なのが入ってくる。場所柄としてはもっと神霊じみた奴が良かった。
(つまり君たち人間は)
 彼は続ける。
(無理にも宇宙に調和を求めたがるんだね)
 暦の話をしてるのかな。
「地は混沌の泥だから――」
 私は鐘の音に紛れるよう、静かに答えた。
「不変律と見える天の文に理想を求めた、歴史的にはね」
(宇宙に理想なんて無いさ。それは人間の解釈、君たちの言う――信仰だ)
「知ってた」
 宇宙人って無駄な事ばかり訊くなあ。あ、列が一歩進んだ。
(しかし僕らは断続という感覚が無い)
「はあ?」
 彼の言葉はすぐ飛躍する。宇宙人だし。
(僕または僕らの意識はね。時空間に(無限に)連続する相対量だ。区切りも果ても無い)毎日が)明日が)昨日がここにあり)好きな事を好きにやり続けるだけの)一種、刹那的と言えようか)
「よく分からんけど羨ましい限りだね」
(本当にそう思う? 僕には死が無い、ただ常にここに在る。でもそれで存在と言えますか、アレシアさん)
 鐘の音が響く。
(存在とは始端と終端を以て定義されるのではありませんか。君たちは時の区切りを意識する、自らの限りある時間のため生きる、よりよく死ぬために生きる、それが)
「お黙り」
 ほら、私の順番だ。

 鐘堂に入り、合掌し、撞木より下る太い白綱を握る。引き気味に手首を傾けると鎖で吊った撞木が微かに応えた。いける、と思う。幾つかの蝋燭の照らす中、目の前には梵鐘の蒼く冷たい質量が揺らぐ。先の余韻を未だ残し、僅かに揺れて動いて見えた。
 どうぞ、と傍らに座る僧侶が囁く。
 私は息を吸い、両腕で綱を引き、真っ直ぐ鐘を打つ。音は澄んだ星空へと抜け、重い唸りが山の木々へ、冷えた竹林へ、そして麓の家々の灯りへと響いて行く。これが私の区切りなのだと、今年がここに始まるのだと。ここに私は鐘を打つ。始まりも、終わりも、ここに必要なのだから。
除夜 アレシア・モード

張鬼子
今月のゲスト:岡本綺堂

 洪州の州学正を勤めている張という男は、元来刻薄の生まれ付きである上に、年を取るに連れてそれがいよいよ激しくなって、生徒が休暇をくれろと願っても容易に許さない。学官が五日の休暇をあたえると、張はそれを三日に改め、三日の休暇をあたえると二日に改めるという風で、万事が皆その流儀であるから、諸生徒から常に怨まれていた。

 その土地に張鬼子という男があった。彼はその風貌が鬼によく似ているので、鬼子という渾名を取ったのである。
 そこで、諸生徒は彼を鬼に仕立てて、意地の悪い張学正をおどしてやろうと思い立って、その相談を持ち込むと、彼は慨然として引き受けた。
「よろしい。承知しました。しかし無暗に鬼の真似をして見せたところで、先生は驚きますまい。冥府の役人からこういう差紙を貰って来たのだぞといって、眼の先へ突き付けたら、先生も恐らく真物だと思って驚くでしょう。それを付け込んで、今後は生徒を可愛がってやれと言い聞かせます」
 しかし冥府から渡される差紙などというものの書式を誰も知らなかった。
「いや、それは私がかつて見たことがあります」
 張は紙を貰って、それに白礬(はくはん)で何か細かい字を書いた。用意はすべて整って、日の暮れるのを待っていると、一方の張先生は例のごとく生徒を集めて、夜学の勉強を監督していた。
 州の学舎は日が暮れると必ず門を閉じるので、生徒は隙をみてそっと門をあけて、かの張鬼子を誘い込む約束になっていた。その門をまだあけないうちに、張鬼子はどこかの隙間から入り込んで来て、教室の前にぬっと突っ立ったので、人々は少しく驚いた。
「畜生、貴様は何だ」と、張先生は怒って罵った。「きっと生徒らに頼まれて、おれをおどしに来たのだろう。その手を食うものか」
「いや、おどしでない」と、張鬼子は笑った。「おれは閻羅王の差紙を持って来たのだ。嘘だと思うなら、これを見ろ」
 かねて打ち合わせてある筋書の通りに、彼はかの差紙を突き出したので、先生はそれを受取って、まだ終いまで読み切らないうちに、彼はたちまちその被り物を取り除けると、その額には大きい二本の角が現れた。先生は驚き叫んで仆れた。
 張は庭に出て、人々に言った。
「皆さんは冗談に私を張鬼子と呼んでいられたが、実は私は本当の鬼です。牛頭の獄卒です。先年、閻羅王の命を受けて、張先生を捕えに来たのですが、その途中で水を渡るときに、誤まって差紙を落してしまったので役目を果たすことも出来ず、空しく帰ればどんな罰を蒙るかも知れないので、あしかけ二十年の間、ここにさまよっていたのですが、今度皆さん方のお蔭で仮を弄して真となし、無事に使命を勤めおおせることが出来ました。ありがとうございます」
 彼は丁寧に挨拶して、どこへか消えてしまったので、人々はただ驚き呆れるばかりであった。張先生は仆れたままで再び生きなかった。