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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第98回バトル 作品

参加作品一覧

(2017年 9月)
文字数
1
小笠原寿夫
1000
2
Bigcat
997
3
サヌキマオ
1000
4
ごんぱち
1000
5
徳冨蘆花
1307

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一八一七
小笠原寿夫

1817年、化学の世界では、新しい元素、リチウムが発見されたとされている。
「俺、七福神の息子やねん。」
「じゃあ、お前誰の子やねん。」
政夫が、楽しすぎて、守るというジレンマ。夢の中に出てくる弟は、天才である。耳元で私に正解を囁いてくれる。
 過去に漫才師を目指していた私にとって、弟のキャパシティーは、半端なものではない。
「お前がおったから、政夫があそこまで行けたんやで。」
と、母は、言ってくれる。
 暖房の効いた部屋で、私が受験勉強をしているところに、弟が入ってきたことがあるらしい。
「何か、僕が入ったら、お兄にめっちゃキレられてんけど。」
後に、そう述懐するのは、弟も高校受験を控えて、寒い部屋で、勉強させられていたからに他ならない。弟の憎まれ口は、真を吐いているから厄介である。弟は、こちらの為す術もなく、相手を言いくるめてしまえる話術を、持っている。手前味噌ではあるが、政夫は、できる男である。
 冒頭部に戻ろう。
「019784」
それを、早口で言うと、関西弁では、そう聞こえる。
「で?落ちは?」
「福禄寿。」
「台本を飛ばすな!」
と言っては、笑いを取りに行く様な芸人さんも居る。
「お前に、一個だけええこと教えたるわ。」
「なんやねん。」
「前にお客さんいてはるねんで。」
「知ってるわ!」

「こないだ、花火大会で、マイクにむしゃぶりつくように二人で、漫才しましたわ。」
楽屋でそれを話すと、先輩は、
「そうか。」
とだけ、答えた。
「お客さん、笑ってたか?」
「花火に夢中でした。」
「せやろな。」

弟に、漫才師にならへんか?と問いかけたことが、何度かある。夢を見ながら、寝言を言っていた時分の話である。人は、それを酩酊状態と呼ぶらしい。世界でリチウムという不安定な元素が発見されたとき、日本は、まだ征夷大将軍を奉っていた。鎖国を貫いた日本は、オランダと中国とだけ貿易をし、位の高いものだけに、学問が許された。
 それは、今も昔も変わらない。
「ヒーハー!」
と叫ぶブラックマヨネーズの小杉さんが居て、何故、それで人が笑うのか、ということを、突き詰めると、ハッピーバースデーにも掛かっている様な気がしなくもない。

 因みに、一八一七というのは、頭に手が届きそうで届かないという下ネタである。
 とりあえず、腹が減ったので、葉巻とガウンで、サングラスをかけながら、ワインを片手に飲もうかとも思っている。というのも、腹が減っている証拠である。
一八一七 小笠原寿夫

お頼み行列
Bigcat

 翻訳家のY子さんは、ずっと田舎暮らしに憧れを抱いていて、ある農村地帯にマイホームを購入した。土地の醸し出すのんびりした空気が嬉しくて、終の棲家にしようかなどと考え始めた矢先の三年目、村の自治会の役員が回ってきた。そしてある晩、
「村の総代の選挙をするんで投票に来てほしいんやけど」
 と、だみ声のおっさんから、有無を言わさぬ招集がかかった。
 集合場所の自治会館に行ってみたら、二十人の役員のほとんどが地元のお百姓さんで、知らない人ばかり。投票用紙を渡されたY子さんが困っていると、隣に座っていたおばさんが、
「Aと書けばええんよ」
 村の年寄り連中の話し合いで、すでに候補者が決まっていたらしく、満場一致でAさん70歳に総代をお願いすることになった。
「それじゃあ早速お頼みに行こか。わしら男衆で行ってくっから、女衆はここで待っといてや」
 と、男たち十人が列をなしてAさん宅に向かった。
 集会所に残ったおばさんたちの話によると、こういう場合、Aさん宅ではすでにお茶菓子を用意して、この「お頼み行列」を待ち受けており、男たちは家に入って型通り、
「あんたが一番適任やと決まったので、是非引き受けてんか」
 と、お願いする。言われたほうは、これも型通りに、
「ワシは器やない。荷がおもすぎる。まだほかにおろうが」
 と言って、たやすく引き受けないのが、この土地の伝統である。
 男衆は、
「いや、あんたじゃないとおさまらんのよ」
 と、しつこくお願いする。
 このやり取りが未明まで延々と続き、この晩は物別れ。その間、Y子さんら女衆はじっと集会場で男衆の帰りを待つ。あまり馬鹿馬鹿しいので、Y子さんは、
「明日までに仕上げなければならない仕事があるので、失礼します」
 と口実を設けて途中で自宅に帰ると、翌日だみ声のおっさんから電話がかかってきた。
「早う帰ってしもうて、急用でもあったんか?今晩もまたお頼みに行くんや。今度は帰らずにずっとおってや!」
 その日の晩、再び男衆の「お頼み行列」が出発し、Y子さんも女性陣に交じって集会場で待っていたが、またもや良い返事をもらえず、さらに次の日の晩も同じことを繰り返し、数日後、やっとAさんは総代を引き受けることになったのだが、
「こんなん普通や。一週間かかることもあるんやで」とおばちゃんから聞いて、Y子さんは現在、
「とんでもない所に引っ越してしまった」
 と、ものすごく後悔している。
お頼み行列 Bigcat

あかとぐろ
サヌキマオ

 昔はぁ、ぢいさんとばあさんがおったげな。ぢいさんもばあさんもものぐさだったもんで、仕事もせず風呂にも入らず、野山にすむ草やけものをとらえて食っておった。おかげで「あのぢいさんばあさんの近くに住んでおると命があぶない」と、けものは駆け出し、魚は泳ぎさり志村はだっふんだ、草木は根を抜いて走って逃げていった。そこでしかたなく、村のごみ溜で口に糊しておった。
 ぢいさんばあさん、ものぐさではあったが暇は暇であった。体をこするとぼろぼろぼろぼろと垢が出る。ぢいさんばあさんの垢を集めてこねて人の形を作り「やあれかわいや」とひと撫ですると「おぎゃあ」と鳴く。驚くまいことか、集めた垢が赤子となったのである。ぢいさんばあさんも最初は驚いたがすぐに飽きた。子供の面倒は文字通り面倒くさかったが、新しい命が産まれるのは面白い暇つぶしじゃった。垢はどんどんこぼれ落ちる。混ぜ合わせてこねれば赤子もどんどん産まれる。乳房に這い寄ってくる赤子たちをばあさんは好きにさせていたが、一人で作る乳だけではどうしても足りぬ。当たり前の話じゃった。かといって近所の乳の出るおかみさんに頼むのも当たり前のように面倒くさかった。
 産まれた赤子も総じてものぐさであったが、さすがにすき腹に耐えかねて不器用に寝返りを始めた。乳飲み子を抱いた女を見つけると足元まで転がっていって大声で泣いた。女もしかたなく乳をやった。
 そうこうして十年二十年も経つと、ずいぶん途中で死ぬものもあったが、それでも村中がものぐさだらけになった。働き者はしばらくはやれ孝行だの信心だの慈善だのとがんばっておったが、さすがに神も佛もないことを思い知って村を出ていった。人だけが村のあちこちでうごめいておったんじゃ。草は食い尽くされてもまた生えた。鳥や獣や魚も新たな土地を求めて知らずにやってきて、追い回されて食い尽くされた。それでもなお、垢と垢を混ぜ合わせると赤子ができる。「やあれかわいや」とひと撫ですると赤子ができる。赤子は峠道をごろごろと転がっていって、何人かは谷底に落ちていったが、うまくすると隣村の子持ち女の足元に転がり込んで大声で泣く。それでとうとう見るに見かねた代官所が村ごと土に埋めた。ものぐさどもはおとなしく埋まったままになったげな。
 それはそう、時を同じうして都に新しく湯屋ができよった。湯屋のわきの溝からは赤子がぼこぼこ、ぼこぼこ、ぼこぼこ。
あかとぐろ サヌキマオ

饅頭
ごんぱち

「饅頭が怖いだぁ? デタラメを言うな!」
「嘘ならもう少し上手く言え!」
「いや、本当なんだ」
「そんなに言うならきっちり絵解きをしてみやがれ!」
「わ、分かったよ……おれの仕事は、火消しだろう? 四年前、深川の八幡様のお祭りがあったじゃあねえか」
「四年前てぇと……」
「永代橋が落ちた時の事か」
「おう。あの時、廻船問屋が船を出しただの、飛び込んで人を助けた侠客がいただの、色んな話があるが、もちろん真っ先におれたち火消しが駆けつけたのさ」
「だろうとは思ってたが、お前あんまし話さなかったな、その事」
「おれたちの組は落ちた連中を助ける役だったんだが、半刻もやったところで、生きている奴が見つからなくなって来た」
「半刻ぐらいは浮かんでられるだろう?」
「濡れた着物は鎖の帷子を着せられたようなもんだ、手足も動かず沈んでいくのさ。それが一日二日経つて膨れて土左衛門になって浮かび上がって来るのも、おれたちの役だった」
「仏をそんだけ扱うたぁ、ぞっとしねぇな」
「こちとら火消しだ、煙に巻かれた仏の一つや二つで怖がってちゃおまんまの食い上げだ。だがな……だが、土左衛門を見ている時に、ふと考えちまったのさ」
「何をだよ」
「饅頭ってのはお前ら、どこの誰が考えたか、知ってるか」
「虎屋じゃねえのか? 芝居見物の時にゃよく売ってる」
「そんな最近のにわか作りの饅頭じゃあねえ、一番最初の話だ。三国志の時代、かの諸葛孔明が、荒れる川を鎮める生け贄の代わりに、人の頭を真似て拵えたてぇのが饅頭の始まりだ」
「人の頭?」
「おれもオヤジに聞かされただけの事で、細けぇ事ぁよく知らねえが、そいつをふと思い出した。その時に、水から引っ張り上げた土左衛門の顔を見たと思いねぇ……橋から落ちた時にぶつけたのか。ふくらみきった白い顔が斜めにばっくり裂けてた。そして奥にドジョウがうねうねうねうね何十匹も蠢いててな。孔になっちまった目からも、四、五匹飛び出してやがった。丁度、食い残した饅頭に、しこたまウジを湧かせちまった時みてぇにな」
「う、うえ……」
「そりゃ、ひでえ」
「だから、おれは饅頭を見聞きするだけでぞぅっとするんだ。同じように中身を食い荒らされるおれの姿を考えちまって……ううっ、畜生、また思い出しちまった……」
「お、おい、大丈夫か。本当に真っ青だぞ。水でも飲め」
「こっちにお茶がある、ほら飲めよ」
「いや悪い、実は茶も怖いんだが――聞くかい?」
饅頭 ごんぱち

五分時の夢
今月のゲスト:徳冨蘆花

 わが不才を悲しみ、人の才を羨み、平凡齷齪あくそくの生涯に倦み、日も夜も紙をべ筆をねぶりてはつくる反故ほごもて飽くことなき暗黒オブリヰオンの腹を養う忌々しさに、ある燈下に筆を折ってく祈りぬ。
われは生くるを欲せず、平凡に倦みぬ、求めて得ざる才を追うに倦み果てぬ、なんじ吾を生かさんと欲せば吾を平凡より救え、吾を平凡に安んぜしめんとならば何ぞ吾に自己おのれの平凡を見せしむるや、吾は生くるを欲せず」
 かしら懊悩おうのうれて、精神やや恍惚。
 忽焉たちまち、光れる者わがかたわらに立ちたれば、しつうち真昼よりも白くなりぬ。
 われおののきて云う「ぞ、なんじは?」
「汝がいのりわが耳に達せり、吾れ汝に諭さん、吾と共にきたれ」と光れる者のたまう。

 飄忽ひようこつとして吾等はおおいなる野に立ちぬ。百花の野に立ちぬ。花として在らざるなく、としてそなわらざるなし。
 光れる者ありの眼よりも細き一箇ひとつの花をとり、問いたまわく「なんぞ」
「――こけの花なり」
「汝、耳傾けてこの花のことを聞け、牡丹ならざるが故にあえて開かずと云うや」
 われ答う「主よ、いな、然れども余は無心の花たる能わざるなり」
 主宣う「来れ」

 飄忽ひようこつとして吾等はおおいなる森の梢に立ちぬ。限りなき鳥の群れ居る森の梢に立ちぬ。として具わらざるなく、としてあらざるはなし。
 光れる者その一羽を余に示して問いたまう「何ぞ」
「鳥のうちにいといやしと云う――すずめなり」
 光れる者宣う「彼に問え、金鷲きんしゆうならざるが故に飛ばずと云うや」
 余答う「否、然れども、吾は無知の鳥たる能わざるなり」
「来れ」

 光れる者また余をいて南の天の下に立たせ、天を仰げと命じたまう。薄絹うすぎぬをはりたる雲あり、空をう。うそぶたまえば、雲のとばりさらりと落ちて、宝珠をくだいて無限の宙宇ちゆううに散らせる如く一天いつてんみな星となりぬ。
 上帝そのいつさしまねたまいたれば、いつの星は蛍の如く飛んでそのたもとりぬ。
 上帝宣わく「此は――と云いて、汝等が棲む地より無極むきよくの遠きにあるものなり。彼に問え、太陽の如く汝等の眼にだいならず、近からざるが故に、あえて光らずと云うや」
 余答う「否、然れども、余はしようなれども、なんじかたどりて造られたるものなれば、星よりもだいなり。星の運命をもて満足する能わざるなり」
「来れ」と上帝宣う。

 飄々ひようひようとして吾等はきよを踏み、くうを渡り、天より天にのぼり、天より天に上り、無辺むへんの天に上り、スペースを横ぎるタイムの橋に立ちぬ。
 ただ見る、石壁、無辺際むへんさいの底より立って無辺際のいただきに達す。へきの石、色としてあらざるなく、形としてあらざるなし。個々べつなるが如く、またただいつなるが如し。
 余問う「主、是れ何のへきぞ」
 主答えたまう「わが天国の城壁なり」
 いつ小石しようせきゆびさして宣わく「汝に力をあたう、その石をきて見よ」
「主よ、否、かのしようなる石を抽かば、おおいなる城壁崩るべし」
 近く寄りてよく見よとのたまいければ、進みて彼の小石こいしおもてを見るに――見よ其の石にられたるはわが名なり。
 わがとどろきぬ。
 主宣う「汝見たりや、わが城壁を築くものことごとわが石なり、大小なく、美醜なし、そのいつを欠くべからず――汝は満足せりや」
 汪然おうぜんとしてわが涙落ちぬ。
「主、然り」

「汝の地に帰れ」とタイムの橋よりおしおとたまうに、と叫びて、おのれを狭き書斎に見出しぬ。頬にはなお涙あり、額には汗珠あせたまを綴れり、
 机上のたもと時計は五分過ぎぬ。
 ともしびの光煌々こうこうと吾を睨めり。