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1000字小説バトル

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1000字小説バトルstage3
第101回バトル 作品

参加作品一覧

(2017年 12月)
文字数
1
Bigcat
898
2
サヌキマオ
1000
3
ごんぱち
1000
4
竹久夢二
911

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Uターン爺さん
Bigcat

 うちの息子は鉄鋼メーカーに就職が決まったが、営業職なので運転免許を取らなければならない。しかし極端に不器用で、運動音痴なので、何度も卒業検定試験に失敗し、今年の二月末、四度目の試験でようやく免許証を入手できたが、息子はいまだに憤懣やるかたないという調子で、
「あの爺さんさえおらんけりゃ、もっと早く取れたんや」と愚痴っている。
 卒検は毎週月、木曜日の朝9時から行われ、A,B,C,D の四コースがある。一度目、息子はCコースで落ちたが、
「練習、練習」と言いながら、あまりがっかりした様子はなかった。
 二度目はBコース、道幅が狭くて、坂道の多い苦手なコースである。
息子が電車の踏切を越えて、ほっと息をつきながら、団地の中に入ったころだ。数十メートル先の右側歩道に紫色のダウンジャケットを着た爺さんが立っているのが見えた。目の前に横断歩道があるのに、いっこうに動く気配がない。息子はなんの迷いもなく、アクセルを踏み込んだ。その途端、でっぷり肥えた試験管のおっさんがぐっとブレーキを踏み、
「中止!」
と宣言し、こう言ったそうである。
「横断歩道に人が立ってるんやから、止まらにゃあかんで」
 これで不合格。
 三度めも、この苦手なBコースに当たり、嫌な予感がしていたが、なんと同じ場所に同じ爺さんが立っていたのだ。息子はビビッて横断歩道の大分手前で一時停止し、爺さんがゆっくり渡り終えるのを待って、おもむろにアクセルを踏んだ。が、その時、信じられないようなことが起こった。渡り終えたと思った爺さんがクルッと向きを変えると、横断歩道を突然走り出したのだ。おかげで試験管は(今度は若そうな人だったが)、急ブレーキを踏んで中止宣言。
 二度まで爺さんにしてやられた息子は、教習所で知り合いになった若者に怒りをぶちまけた。するとその若者は、
「その爺さん、もしかして紫色のダウン着てなかった?」
 聞けばその若者も、全く同じ場所で爺さんの急なUターンの被害にあったのだそうだ。さらに数日後、
「爺さんが急に走り出してなァ」
 という別の若者の声を自動販売機の前で聞くに至り、爺さんの被害がかなり拡がっていることを知ったのだった。
Uターン爺さん Bigcat

ウーワンワン キャウン
サヌキマオ

 中国福建省の浦さんは名伯楽で浦馬公と呼ばれたの。
「駄目駄目だ! くわわっ!」先生は一声叫んでデスクから五メートルほど飛び上がると、全身を床に打ってしばらく静かになりました。
「どうして駄目なんで酢、『うまのプーさん』いいぢゃありませんか」
「なんとか中国人の姓で『プーさん』と呼べる漢字を持ってきたところまではよかった。駄菓子菓子、ここからどう繋げんのヨ」
 ようよう起き上がった先生は両手で股間をかきむしりながら陰毛を大地にハラハラと落とすのでした。おげれつ!
「と酢ると、今月はいよいよストックの『珍々々宝』で酢か」
「いや、あれは出す機を逃してしまった。『前々々世』流行ったのなんて一年前よ? もう誰も覚えちゃいないよ、アレ」
 パロディはパロディだとわかってもらえなきゃそりまでだがらよぉ、とぼやいたところで電話があった。電話を取ると同時にガラケーを耳に当てた閻魔大王が天井から降ってくる。どがめしゃばろろろぼき。先生、下敷き。
「あろろ閻魔様。お呼びとあればいつでも参上しましたぬに」
「まーたやりやがったな」閻魔大王はガラケーの読みにくい画面を先生の顔に押し付けます。
「なんだこの『肛門の多い料理店』ちゅうのは」
「ですから『注文の多い料理店』を下敷きにしまして。人食いハウスに澤山の肛門が」
「なんでも書けばよい、というものではないだろう?」
「なんでも書きゃあいいってもんですよ! その時その瞬間は少しでもオモシロイと思ったんですから!」
「むーん、ではこの回だ。『ウーワンワン キャウン』というのは?」
「あー閻魔様、吾妻ひでおを知らないな?『やけくそ天使』のサブタイトルで本当にあるんすよ、それ」
「単なるパクリではないか!」
「秀逸じゃないですか! タイトル決めるのに困った挙句『ウーワンワン キャウン』。作者の必死さが乙でがしょ?」
「いいかげんに千回!」
 大王の一喝で私も先生も飛び上がります。よく飛び上がる仕事場なので天井を七メートルにしてありましたがそれでも足りなかった。首から上が天井に突き刺さる。
「どうせ無駄な時間と脳みそを絞って書くのだから、もっと世の為人の為になるものをものそうという気がないのかッ!」
「それはちぃーとも気が付かなかった!」
 そうこうしている間に除夜の鐘がゴーン。平成二十九年もGONE(しゃれ)。お前も去ねっ! というわけで年明けから地獄の底にゴーン。みなさんもよいお年を!
ウーワンワン キャウン サヌキマオ

めしくわぬひと
ごんぱち

 昔、あるところに男がおりました。
 年頃になり、村の者が嫁を世話してやろうとしましたが、
「嫁など、飯ばかり一人前に喰う。飯食わぬ嫁ならば貰おう」
 と、断るばかりでした。
そんなある日飯を食わぬという女が尋ねて来たので嫁にしましたが、実は女は頭に口がある化け物で、男がいない時に家の米を喰い荒らしていました。
 何とか逃げ延びた男は、心を入れ替え、飯は多めに食うけれど、よく働き気立ての優しい嫁を貰い、幸せに暮らしました。

「――なあお前、そろそろ台所に立つのが難儀ではないか?」
 台所の前で腰をさすっている、年老いた嫁に、男は尋ねます。
「手伝いする人を頼んだらどうだろう?」
「そんなものを雇ったら、どれだけの金が出て行くか。金取らぬ人がおれば別ですが」
 男はそれきり何も言えませんでした。

 ある日、夫婦の元に女が一人やって来ました。
 なんと、その女は金を取らずに家事の手伝いをしてくれるというのです。
女は毎週のように来てはよく働きました。男が隠れて見張っても、こっそり金を抜く事も、飯を盗み食いする事もありません。
しばらくした後、男はしみじみと嫁に言いました。
「昔わしは、飯食わぬ嫁をほしがり、結局化け物に騙され喰われそうになった。だが、金取らず飯を食わぬ人というのはいるものなのだなぁ」
「きっと、心を入れ替えたご褒美に、観音様が遣わしてくれたのですよ」
「――こんにちはー、税務署です」
 その時です、スーツ姿の中年の男が入って来ました。
「人頭税の徴収に参りました」
「ちょっと待って下さい、わしらは生活保護世帯で非課税だろう?」
「この前の受給の時に、説明が付いていたでしょう。所得税の他に、ベーシックアウトカム制度が成立して、永住資格を持つ者は全て徴収対象になったのですよ」
「わ、われわれに、飯を食わずに生きろと言うのか! あの家事をしに来る奴らのように!」
「ヘルパーさんの事でしたら、介護保険と生活保護の介護扶助から報酬が支払われていますよ。今回の増税も、彼らの処遇改善が主たる目的です」
「うそだ、うそだ! あれはほんとうに金を取らぬ人だ! 観音様のご褒美なのだ! だから! そんな!」
 男はわめき続けたので、その後、そーしゃるわーかーが来て、時間をかけた面談の末に、ようやく男は納得して金を支払う事にしましたが、その時にはもっと、税金は上がっていました。
 そーしゃるわーかーも、金取らぬ人ではないのです。
めしくわぬひと ごんぱち

師走男
今月のゲスト:竹久夢二

 辻褄つじつまのあわぬ話もおもしろや
 そのきぬぎぬの嘘の涙も

「君はいくつだい?」
 男は、茶卓の上に両ひじをついて顔を押し出すようにして女にきいた。女は、銀杏いちよう返しの頭をすこしかしげて、眼を膝の上に落した。その仕草が、堅気の娘に見えることを意識しながら、そしてまたうぶ﹅﹅らしく見えるのが男を喜ばせることも知っていた。
「いくつに見えて?」
 女は恥かしそうに、あたし十七よとか何とか答えるかと思いの外、いくつに見えてと逆襲してきたので、男は幾何の問題を考える中学生のように、大真面目で女の顔を見つめた。
「さあ、ちょっと分らないが………………」
 女は、もう馬鹿らしくなって顔をあげた。
「およしなさいよ。真面目なつらをして人の顔を見つめてさ。あなたはきっとあたしの年を二つ三つ若く言って、あたしを少しでも喜ばしょうと思って考えているんでしょう。でなかったら、あたしを一つでも若く思って自分で満足したいんでしょう。男ってものはみんなそうなのね。女が若くて不幸でさえあればいのね。ね、そうでしょう。あたしがはじめ『あたし十六なの』って素人らしい顔をして言っちまえば、あなたは『そうかも知れない』と信じてしまう所だったのよ。あなたは随分ずいぶんお人好しね。あなたの前で年若い娘が『あたしそりゃ不幸な身の上なのよ』とでも言ってごらんなさい。あなたは小学校の生徒が修身の時間に孝女伝こうじよでんをきいた時のように、同情してしまう人です。あなたの前では、嘘のことをいうのは面倒くさいし、あけすけに本当のことなんぞ馬鹿らしくて言えないわよ。あなたのような人には、ほんとに惚れる女があるかも知れないわ、正直だから。でもたのもしくないのね、惚れる女など一人もないかもしれないわ。それよか早く、まるまると肥った奥さんのとこへお帰んなさいね。幼稚園の生徒が歌ってるじゃないの、何とか言ったっけ、そうそう、とうさまかあさままっていて、たのしいおうちがありまするチュッチュッチュッてね。あんたにゃ、あすこが一番いのよ。奥さんがないっての、景気がわるいわね。奮発して一人お貰いなさいよ。世間で言うじゃないの、春は花魁おいらん、夏芸者、秋はめかけに、暮女房って、あんたのような師走男には女房が一番いのよ」