師走男
今月のゲスト:竹久夢二
辻褄のあわぬ話もおもしろや
そのきぬぎぬの嘘の涙も
「君はいくつだい?」
男は、茶卓の上に両臂をついて顔を押し出すようにして女にきいた。女は、銀杏返しの頭をすこしかしげて、眼を膝の上に落した。その仕草が、堅気の娘に見えることを意識しながら、そしてまたうぶらしく見えるのが男を喜ばせることも知っていた。
「いくつに見えて?」
女は恥かしそうに、あたし十七よとか何とか答えるかと思いの外、いくつに見えてと逆襲してきたので、男は幾何の問題を考える中学生のように、大真面目で女の顔を見つめた。
「さあ、ちょっと分らないが………………」
女は、もう馬鹿らしくなって顔をあげた。
「およしなさいよ。真面目な面をして人の顔を見つめてさ。あなたはきっとあたしの年を二つ三つ若く言って、あたしを少しでも喜ばしょうと思って考えているんでしょう。でなかったら、あたしを一つでも若く思って自分で満足したいんでしょう。男ってものはみんなそうなのね。女が若くて不幸でさえあれば好いのね。ね、そうでしょう。あたしがはじめ『あたし十六なの』って素人らしい顔をして言っちまえば、あなたは『そうかも知れない』と信じてしまう所だったのよ。あなたは随分お人好しね。あなたの前で年若い娘が『あたしそりゃ不幸な身の上なのよ』とでも言ってごらんなさい。あなたは小学校の生徒が修身の時間に孝女伝をきいた時のように、同情してしまう人です。あなたの前では、嘘のことをいうのは面倒くさいし、あけすけに本当のことなんぞ馬鹿らしくて言えないわよ。あなたのような人には、ほんとに惚れる女があるかも知れないわ、正直だから。でもたのもしくないのね、惚れる女など一人もないかもしれないわ。それよか早く、まるまると肥った奥さんのとこへお帰んなさいね。幼稚園の生徒が歌ってるじゃないの、何とか言ったっけ、そうそう、とうさまかあさままっていて、たのしいおうちがありまするチュッチュッチュッてね。あんたにゃ、あすこが一番好いのよ。奥さんがないっての、景気がわるいわね。奮発して一人お貰いなさいよ。世間で言うじゃないの、春は花魁、夏芸者、秋は妾に、暮女房って、あんたのような師走男には女房が一番好いのよ」