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第2回1000字小説バトル
Entry1

家庭教師初日

作者 : 君島恒星
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 美里は無表情でベランダから卵を投げていた。僕の足元で卵がつ
ぶれる。
「何してるんだ?」
「見てわからない? 卵を投げてるのよ」
 美里の投げた最後の卵は僕の額で炸裂した。僕はそのまま玄関を
開けた。
「こんにちは。鈴木ですけれども」
 スリッパの音とともに、愛想のいい母親が顔を出した。と同時に
額の卵にびっくりした。
「どうなさったんですか? 先生!」
 今日から、ここの家の娘の家庭教師をすることになっている。
「いや、鳥が飛びながら卵を産んだみたいで・・・タオル貸しても
らえませんか?」
「どうぞ、洗面所を使ってください」
 顔を洗っている時、美里は僕を見ていた。
 母親から娘の美里を紹介される。卵を投げていた時の無表情では
なく、笑顔で挨拶をしていた。親の前ではいい子なのだろう。美里
の部屋で、家庭教師の初日を迎えた。
「なんで、言い付けなかったの?」
「何でだと思う? 三回チャンスをあげよう」
 美里は無表情のまま首を傾けて考えこんでいた。
「家庭教師のアルバイトを失いたくないから?」
「違うな」
「ベランダのわたしに一目惚れしたから?」
「逆はあっても、それはない。ラストチャンスだぞ」
「当たったらいいことある?」
「そうだな。僕の初恋の話を教えて上げようかな。誰にも話したこ
とない貴重な話だ」
 美里は目を輝かせた。
「わたしと同じように卵を投げたことがあるからとか?」
「ピン、ポン。たまげたな。当たっちゃったよ」
「約束よ」
 僕は初恋の話を始めた。初日の勉強はどうでもよくなっていた。
僕の家庭教師は女子大生だった。勉強嫌いの僕は初日に卵を投げつ
けた。泣いて帰ると思ったけど、何も言わずに勉強を始めた。僕は
美里のように、何で言い付けなかった? とは聞けなかった。その
疑問は、いつか恋心に変わり、勉強にも熱が入っていった。彼女は
最後まで僕など相手にしてはくれなかったけど・・・
 初日は自分の話で終わってしまった。母親は言った。
「変わった子ですけど、よろしくお願いします」
「お母さん、自分の娘をそう言ってはいけませんよ」
 母親は恐縮していた。
 表に出てベランダを見上げると、目の前に卵が飛んできた。
「先生、またね!」
 美里は笑顔を見せた。気に入られたかもしれない。
「コントロール悪いな。ハートはここだぞ!」
 美里は爆笑していた。






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