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第2回1000字小説バトル
Entry18

隠し専門

作者 : 海坂他人
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 そこは、坂の途中の、よじれたようなT字路の突き当たりだった。
「隠し専門」
 ある店の前に、こんな看板が、風を受けて回っている。
 ぼくは、信号で止まったバスに乗っていた。隠し専門、隠し専門
……この四文字が頭の中でくるくる回るうちに、ぼくの指はいつの
間にか、停車ブザーを押していた。
 バスを降りて、後戻りし、その店に入ってみた。
 隠すというからには、貸金庫か、貸倉庫のような商売かと思った
が、狭い店内にはまるで手芸店のように、いろいろな布が並び、老
婆が一人、店番をしている。
 聞いてみると、貸金庫でも、手芸店でもないという。
――今どきはポッケットですが、
隠しと言ったものでございましてね、昔は、と彼女は言った。ここ
にある布で、お客様の好みに応じて誂えて差し上げております。
 ぼくも、一つ作ってもらって、上着の胸の裏に釦で留めて、その
店を出た。
 家に帰って、さっそく、老婆の言葉を確かめてみた。
――外見の大きさは普通ですが、容量は無限大です。入れられない
ものはございません。
 まじめな顔をしてこんな事を言われても、二十二世紀でもあるま
いし……と疑っていたのだが。
 隠し場所にそろそろ困っていた、写真春本を十冊ばかり入れてみ
た。
 苦もなく呑み込まれてしまった。
 世間の方々には隠したいものが多うございますようで、と老婆は
言ったが、確かに重宝なポケットだった。親には見せたくない答案、
そのあたりで拾った子猫。
 しかし、不思議に必ず見つかってしまうのだった。答案を隠して
も、学校から連絡が行くし、子猫は外でミルクを飲ませているとこ
ろを捕まった。
 そこでぼくは、決して誰にも知られたくなくて、そして絶対に見
つからないものを、隠すことにした。
 それは、ある一人に向かう矢印を持つ、自分の感情。対象は、同
じクラスの子だった。

 次の日学校に行くと、一つの机が、一日中空いていた。
 次の日もまた次の日も、机の主の姿は見えなかった。教師も平気
で点呼をとり、生徒たちも気にする者は誰もなかった。
 ぼくはポケットに隠したものを、早く出さなければと考えた。し
かし出すのも怖かった。中を探ってみると、とくん、とくん、と暖
かく手に触れる。
 最後にぼくは、自分がこのポケットに飛び込むことに決めた。

 そこはT字路の坂の途中の「隠し専門」の看板の前だった。

 ぼくの目指すべき先は、一つしかない。隠した感情をつかまえて、
言葉に表すために。






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