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第2回1000字小説バトル
Entry21

きかい

作者 : 笑夢いとう
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 丸い視界の中央には、十字が刻まれ、右斜め下には距離を示すメモ
リが表示されている。俺にとって、スコープ越しの風景が全てだった。
 ニ脚架に載っているライフルは、体の一部といえた。いや、体がラ
イフルの一部であるというのが正確だろう。トリガーにあてがった人
差し指は、部品だ。そして、無線機からの命令が、それを引かせる。
俺は、茂みの中に溶け込んだ機械に過ぎない。

 イヤホンが雑音混じりの声で方位を告げる。スコープを向けると、
何かを肩に担いだ人間が、廃墟の風景に映えている。後方の高台から
は、兵器を担いだ敵兵に見えるのだろうが、TVカメラを担いだ民間
人だった。無線機は受信専用。物資不足のため、故障機を使わざるを
得ない。イヤホンは射撃を命令した。人差し指が震え、口内に苦味が
広がる。少しばかりの躊躇…。
 
 口調を強めた音声が再度命令を下した。動揺と葛藤は払拭される。
十字を男の胸部に重ね、呼吸を止め、静かにトリガーを引く。銃床か
ら肩に反動が伝わる。乾いた銃声。薬莢が宙に舞い、男がスコープの
中で卒倒する。
 どうせ機械になるなら精度が高い方がいい。それが、俺の僅かなプ
ライドなのだ。


 戦闘に巻き込まれ、銃声の反対方向に本能的に逃走した。そして気
づいた時、俺はここに立っていた。
 スナイパー通り… 廃墟に囲まれたこの国道の別名だ。ここを挟ん
で、二つの勢力が互いに睨みをきかせている。この通りで狙撃された
兵士を取材したばかりだ。全身の血の気が引き、膝が震える。下腹部
に圧迫を感じる。すぐにでも失禁しそうだった。

 右手に掴んでいたカメラを肩に載せた。ファインダー越しの風景は
急に現実感がなくなってしまう。まるで俺の眼球が、カメラの一部に
なったような感覚だ。そこに映る風景は絵空事、茶の間のテレビ画面
と同じだった。
 この通りから、左右に広がる両陣営を撮影した局が無い事を思い出
す。カメラは俺に貪欲な精神を授けてくれる。両膝の震えがピタリと
止る。視野の震えも止り、画面が鮮明に落ちつく。

 カメラをゆっくりと旋回させる。崩れたビル、その壁の密な弾痕、
榴弾砲でえぐられた道路のクレーター。しかし、まるで現実感はなか
った。演出を失敗した戦争映画のようだ。
 画面が一瞬明るくなった。すると、突然カメラが重くなる。両膝に
踏ん張りが効かない。胸を鋭い物が貫いた。
 銃声は聞こえなかった。ただ、現実的な暗闇で視界がいっぱいに
なっていた。






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