第2回1000字小説バトル
Entry23
天井にはユラユラと紫の煙が立ち昇っている。 午前2時、洞窟のようなその店で男を拾った。 男はとてもカタチのいい身体に、ヒヤリと尖った眼を持っていた。 男とふたり、真夜中のビルの谷間を歩く。 夜昼眠らずはしゃぎ過ぎる街の喧騒が、カサカサ乾いたウサギの 瞳に容赦なく突き刺さる。 街はずっと爆破の時を待っているのだとウサギは思う。汚されて ゆくだけの哀れなコンクリートの怪物達には『華やかな崩壊』それ 以外、観る夢も他に無い。 街で生まれ、街で育った。気づいた時には病んでいた。ただニン ゲンとして酔って笑って暮らしたいと望むのに、僅かに残るケモノ の心が『 何もかも壊してしまえ 』と命ずるのだ。 街の夢が静脈をヒタヒタと侵食してゆく。 『ここでヤって。』とウサギは囁く。ここで自分を切り裂いて。 脅えるばかりの無力な自分を忘れる為に、ウサギは欲望に眼を凝 らす。知恵を捨て、道徳を捨て、感情を捨て、凍り付いた自意識か ら逃げ出せたなら、どんなに正直に優しくなれる事だろう。 男は勘の良い従順さで、ウサギをコンクリートの壁に押し付ける。 冷たいコンクリートの居心地の悪さも、背中に走る痛みも、何もか もが快感に感じる。キラキラ光る街の灯りに内臓まで曝け出して、 例えば明日の朝、轢き殺された猫の死体のように無防備にアスファ ルトに転がっていたいとウサギは思う。 もっと残酷に、もっと厭らしく、街の夢を終わらせてとウサギは 叫ぶ。 気がつくと見知らぬ部屋で、薄い闇の中、男の体温がぼんやりと ウサギを包んでいる。 ウサギはそっと男の腕を噛む。もし自分が肉食の獣であったなら、 今すぐ男の喉仏に食らいつき、餓えた心を満たすだろう。けれども 鋭い歯も持たない哀れなウサギは、生け贄にもなれぬまま、こうし て又お腹を空かせて目覚めるのだ。 苦しい想いに沈みそうなウサギの体を、男の指が優しく撫でる。 『あなたはきっと知らなかっただろうけど、僕はずっとあなたを観 ていた。』 思いがけず柔らかく静かな声で、男が囁く。 『あなたが何時も哀しそうに見えたから、僕はあなたと話しがした いと思っていた。』 男はニンゲンらしいやり方で、とても上手にウサギの身体を抱き 締める。 イッタイ ナニヲ? どうやって話せば良いのだろう。 鈍感な暖かさの中でどうしようもなく途方に暮れて、ウサギは男 の喉仏をじっと見ている。
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