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第2回1000字小説バトル
Entry24

ソルティ・ドッグにどうかよろしく

作者 : ヒモロギ
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 潮が満ちると、潮犬たちは波打ち際までやって来る。穏やかな波
ともいえぬ波でしばし波遊びに興じ、夕暮れには引いていく潮と共
に沖に帰る。二十年経ってもこいつらといったらまるで何も変わっ
ていない。

 父さんはバナナの叩き売りを生業にしていた。子供の頃、バナナ
の山を積んだリヤカーを引く父さんの後ろにくっついてこの堤防の
道を何度となく往復したものだった。父さんは口上が下手で、その
うえ対人恐怖症で、しかも扱うバナナときたら青くて不味くって。
僕を含めた人間一般と面つき合わせてまともに話のできなかった父
さんは、いつも行き交う人々に背を向け、海に向かって通り一遍の
口上を呟き、そしてその呟きは潮騒がみんなさらっていった。そん
な風であったから客なんか稀で、構ってくれるのは潮犬くらいのも
のだった。潮犬たちは魚やサンゴ、時には真珠なんかを咥えて波打
ち際に現れ、アンアンと鳴く。それを聞いた父さんと僕は砂浜に降
りて、実に原始的な物々交換を始めるのだ。いつしか僕ら親子は、
堤防より砂浜にいることのほうが多くなっていた。

「今は何をしてらっしゃるの?」
 「ご愁傷様」とか「この度は本当に」なんていう一通りの挨拶の
後、近所のおばさんが遠慮がちに聞いてきた。
「一応、若くしてロボット工学の権威です」
 我ながら嫌味な奴だと思う。でも、二十年前に僕らがあなたたち
から受けた嘲笑に比べれば、こんなもの。

 潮犬はひどく臆病で、人が近づけば海に潜る。八百屋で買ったモ
ンキーバナナを放り投げてやっても、用心してのことなのか口をつ
けようとしない。そういえば、なぜか父さんのバナナだけはいつも
美味そうに食べてたっけ。

 潮犬型のロボットを作ってみた。警戒を解いてくれるだろうか。

 潮犬たちは波間から頭だけを出し、僕と僕のロボットを不思議そ
うに見ている。スイッチを押すとロボ犬はゆっくりと三歩ほど歩き、
砂浜に足を取られて転倒し、ガーと一声鳴き、加えていたバナナを
噛み砕き、グリングリンと首を回しネジを飛ばしバナナを飛ばし、
フラリと起きてヨタリと歩いて石につまづきバナナに滑ってひっく
り返ってそれっきり、動かなくなった。

 壊れた。僕は砂まみれのガラクタを呆然と見つめ、潮犬たちはそ
んな僕を波の合間からじっと見ている。そしてガラクタの頭部から
バネの力でビヨンと飛び出たシリコン眼球には海の向こうの入道雲
でも映ってるのか、潮風にビヨンビヨンと揺れている。






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