第2回1000字小説バトル
Entry27
鉄格子の中から看守に引きずられるようにして出てきた少年は、 まだ十六歳だった。幼さが残っている面立からは、彼が自分の父親 を殺した犯人だとは、とても信じられなかった。 「糞牧師かよ」 言うなり、彼は私の顔に唾を吐いた。殴ろうとする看守を制して、 私は彼と二人きりにしてくれるように頼んだ。 彼は手錠を掛けられたまま面談室の椅子に腰掛け、机の上に足を 乗せた。 「俺が何で親父を焼き殺したのか、訊くように頼まれたんだろ?」 私は頷いた。 「喋らないぜ、俺は」 沈黙の面談は一週間、続いた。 「なあ、何で訊こうとしねぇんだ?」 遂に彼が質問した。私は閉じていた目を開いた。 「君が話そうとしない事を、無理に訊こうとは思わない」 「なら、俺が訊くけどよ、あんた、俺といる間ずっと目ェ瞑って、 一体、何をしてるんだ?」 私は彼の目を見て、ゆっくりと答えた。 「君の父上の魂が天国に召されるように、と祈っている」 案の定、私は首を折られるかと思うほどの勢いで胸倉を掴まれた。 「そんな事をするんじゃねえ、あいつは地獄に堕ちて当然の屑野郎 なんだッ!」 「しかし、私は君の父上の事をよく知らないからね」 「分かったよ、話してやるよ。そうすりゃ、あいつのために祈ろう なんて気は失せるだろうからな」 「去年、お袋が癌で死んでからだ。親父は聖書に異常な愛情を注ぐ ようになった。例えばだ、親父は聖書と一緒に風呂に入る。食事時 にはパンとバターを聖書に挿んで、コーヒーをかける――食べさせ てるんだ。 それじゃあ読めなくなるって? 大丈夫さ。親父は聖書を何百冊 と持っていたからな。ダメになったら火葬して、次のが親父の新し い花嫁になるんだ。この意味が分かるか?」 彼の目が狂おしく光った。 「親父は聖書と契っていたんだッ! しかも、あいつは精液まみれ のそれを持ってきて、俺にも同じ事をさせようとしやがった! 『これでお前も獣から人になれる』と言ってよ! そうさ、親父の家族は聖書だけで、息子の俺は物かペットでしか なかったんだ。食事も床の上で犬のように食べさせやがって、話も まともに聞きやしねぇ、挙げ句の果てに変態の仲間入りをしろ、だ と? だから俺は親父をぶん殴って、それと一緒に焼いてやったのよ! 本望だろうぜ、実の息子より大事な聖書とあの世に行けたんだから なあ!」 彼は泣いていた。私にはただ彼を抱きしめて祈る事しか出来なか った。 主よ。我らを救い給え。アーメン。
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