第2回1000字小説バトル
Entry28
インドでは普通に英語を使っていた。もちろん、家族や友達の間 ではウルドゥをしゃべっていたけど、役所や学校など、公式な場所 では子供の頃から英語を使っていたので、アメリカへ留学したから って、言葉で困ることがあるとは思いもよらなかった。でも、文化 と言語は一体だ。インド育ちのイノセントな僕には、アメリカでの 生活は、住み始めて一年以上たってもわからないことがある。 インド人仲間の一人が、久しぶりに僕を尋ねて来た時のことだっ た。 「あ、あの、これ……。どうしてこんなところに置いてるんだ?」 奴はおそるおそるテレビの上の、ビニールパッケージを覗きこん でいる。 「ああ、それ? この間、ダウンタウンへ出たとき、試供品でもら ったんだ。シャンプーは使ったんだけど、あんまり良くなかったよ。 ちっとも泡が立たないんだ。第一、量が少な過ぎだよ。そこにある、 ジェルとクリームは、どう使うのかよくわからないから、そのまま にしてるんだけど」 すると、奴は深呼吸をして、僕を静かに見つめ直して言った。 「あの、これは、エッチの効果を高めるために使うんだ」 「お、おまえ、どうしてそんなこと、知ってるんだ!」 僕の顔は青ざめた。 「僕、今学期、ヘルスサイエンスのクラスを取っているんだけど、 そこで習ったよ。そんなこと、アメリカでは小学生でも知ってるら しいよ」 僕は呆然と天井を見上げた。軽く半月はそのパッケージをテレビ の上に放りっぱなしだったし、その間にたくさんの友達がここへ出 入りしていたのだから。 「なあ、そのシャンプー、頭に使ったのか?」 「ああ。だって、シャンプーって書いてあったから……」 奴の顔つきは、さらに深刻になった。 「君、他にとんでもないことをしでかしてないかい?」 僕は頭をフル回転で、サーチ機能を作動させた。何もあって欲し くない、という切実な思いもむなしく、僕はある女の子の言葉をリ ストアップしてしまった。 「そういえば、一昨日のことなんだけど、セクシーなブロンドの子 が僕に聞いたんだ。いつも男友達と一緒だけど、あなたはゲイかっ て」 「で、君、何て答えたんだ」 「Yes……だよ、だって、ゲイって、“陽気な”って意味だろう? インドの辞書にはそう載ってたよ!」 僕はいい訳をするように声を高くした。彼女のその時の反応が気 になっていた僕は、奴の次の言葉を聞くのが少し怖かった。奴はう つむいたまま、小声で言った。 「ゲイって、同性愛者のことなんだ」
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