第2回1000字小説バトル
Entry7
様々な感覚が私の意識に現れ、徐々に現実を理解し始める。重い 瞼をゆっくりと上げると、光の粒子が飛び込んでくる。その粒子は 清潔な芳香をもち、鼻孔をくすぐる。辺りには朝が奏でる静寂の音 があった。そういった感覚が、いつも私に朝を教えてくれるのだ。 しかしその日は違った。左腕に彼女の重さが感じられないことで、 私は朝を知ったのだった。ゆっくりと体を起こし、辺りを見回して みたが、やはり、何処にも彼女の姿は見あたらなかった。 「帰ったのか・・・・」 私は我知らず呟いていた。はっきりしない頭で、彼女が帰った理 由を考えた。昨日の出来事を反芻してみる。彼女のぬくもりと控え めな香水の匂いが、朝を夜に引き戻すようであった。ふと、私は彼 女の黒い皮のバックがあることに気付いた。彼女は帰ったのではな かった。恐らく、買い物か何かで外に出たのだろう。そう思ったと 同時に、軽快な足音が玄関の外側に近づいてきた。私は、慌てて横 になって、シーツを被り目をつむった。何故、寝た振りをしている のか、自分でもまるで分からなかった。 朝は完全な朝になった。私は再び体を起こして、彼女の後ろ姿を 見つめた。彼女も気付いたらしく振り向いて、こちらを見た。 「朝だよ」 彼女は再び私に朝を告げた。 「朝だね」 私はそう答えて、朝という瞬間に満足すると同時に、その瞬間が 過ぎ去ったことが、妙に寂しかった。
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