インディーズバトルマガジン QBOOKS

第2回1000字小説バトル
Entry7

作者 : ロシナンテ
Mail :
Website :
文字数 :
 様々な感覚が私の意識に現れ、徐々に現実を理解し始める。重い
瞼をゆっくりと上げると、光の粒子が飛び込んでくる。その粒子は
清潔な芳香をもち、鼻孔をくすぐる。辺りには朝が奏でる静寂の音
があった。そういった感覚が、いつも私に朝を教えてくれるのだ。
 しかしその日は違った。左腕に彼女の重さが感じられないことで、
私は朝を知ったのだった。ゆっくりと体を起こし、辺りを見回して
みたが、やはり、何処にも彼女の姿は見あたらなかった。
「帰ったのか・・・・」
 私は我知らず呟いていた。はっきりしない頭で、彼女が帰った理
由を考えた。昨日の出来事を反芻してみる。彼女のぬくもりと控え
めな香水の匂いが、朝を夜に引き戻すようであった。ふと、私は彼
女の黒い皮のバックがあることに気付いた。彼女は帰ったのではな
かった。恐らく、買い物か何かで外に出たのだろう。そう思ったと
同時に、軽快な足音が玄関の外側に近づいてきた。私は、慌てて横
になって、シーツを被り目をつむった。何故、寝た振りをしている
のか、自分でもまるで分からなかった。

 朝は完全な朝になった。私は再び体を起こして、彼女の後ろ姿を
見つめた。彼女も気付いたらしく振り向いて、こちらを見た。
「朝だよ」
 彼女は再び私に朝を告げた。
「朝だね」
 私はそう答えて、朝という瞬間に満足すると同時に、その瞬間が
過ぎ去ったことが、妙に寂しかった。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。