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第2回1000字小説バトル
Entry9

別人

作者 : 風祭にぎり
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 絨毯の上に落ちた縮れた陰毛を拾い上げた。じーっと眺めてみる。
臭いを嗅いでみる。口の中に含んでみる。柔らかく喉越しを滑って
いく。「ウォエー」嗚咽した。
 なにバカな事をしているのだろう。無意識の行動に自分は存在し
ない。別人の仕業だ。これはほんの一部の出来事。暇になるとこい
つが僕の頭を支配する。
 僕がこいつの存在に気付いたのは、小学生の時、進学塾での事だ
った。
 その日の授業は算数。もう飽きるほど予習をしてきて話しを聞く
必要がなかった。窓の外にいる行き交う人達をただぼーっと眺めて
いた。窓の外に目線が辿りつく前に一人の女の子が目に入る。別段
可愛いわけでもないし、特別な気持ちをその子に抱いていたわけで
もない。
 何時の間にか彼女の髪に手が伸びている。そーっと彼女を撫でる。
少女は振り向いた。嫌悪する彼女の目線。僕自身その目に気付きな
がらも、じっと撫でつづけた。
少女の目が、嫌悪から怯えに変わる。涙が彼女の頬を伝っている。
湿った泣き声が静かに教室に、こだました。
「斎藤、何してるんだ」
 先生の怒鳴り声に、塾生は僕一点に注目する。我に帰った。
「僕じゃないよ」
 咄嗟に出てきた僕の言葉に初めて、別人の存在を知った。

 それからというもの別人は僕が暇になると現れては、悪戯な行動
に走り僕を絶句させたり、笑わせたり、悲しませたり、救ったり、
弄んでいた。
 しかしながら、僕は子供の頃からプライドの高い少年だったので、
理論的な答えにならない存在の別人について、話す事はなかった。
 その事について、時々不思議なしぐさをとる僕は罵られる時があ
ったが、僕は相手の弱点を見つけてその何倍にもあたる攻撃的発言
をして罵倒した。
 別人を助ける必要はないと思いつつ、いつも周りに別人の援護射
撃をするような発言をするものだから、友達と呼べる人は何時の間
にか別人しかいなくなっていた。

 日本で一番オツムのいい大学を卒業して海外勤務となった。日本
から遠く離れた国に駐在していた時も、別人だけは時々現れた。だ
から僕は寂しくも無かったし、強い人ともいわれる大人になった。

 結婚初夜、僕達が夫婦になってはじめて愛し合った夜の告白。
「わたしにだってね、別人はいるのよ。その別人がね、あんなに嫌
だったあなたの事、好きになったんだから」
 僕の傍らに横たわる妻がいる。
「人のせいにするなよな」
「あれっ」
 二人して急に可笑しくなり吹き出した。






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