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第2回1000字小説バトル全作品・結果一覧


#題名作者文字数
1家庭教師初日君島恒星-
2(有)オリムピック製菓穂室たまお-
3神様遼河-
4(作者希望により削除)--
5チクタク歌鳥-
6虹の国 〜虹3104-
7ロシナンテ-
8命名(アンゴルモア)TAKUTO-
9別人風祭にぎり-
10中学三年生英俊-
11木蓮夜想瓜生瑠璃-
12未成熟伊藤 修-
13物語と日常あさ-
14オオキくナれよ高島朝也-
15ストーカー東京りんご-
16『ロクさん』おーぎや-
17因果渡会 悠-
18隠し専門海坂他人-
19宇宙刑事ポギィ-
20DOREIよしよし-
21きかい笑夢いとう-
22モルヒネ鹿野 まどか-
23真夜中のウサギオザキトラ-
24ソルティ・ドッグにどうかよろしく ヒモロギ-
25政宗 −小田原前日−モーゲン王-
26「ほおのみ」と読んで下さい。HCE-
27精液と聖書Matock-
28今時、無垢な人藤原しおり-
29鳥人幸吉みかりん-

第2回1000字小説バトル
Entry1

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家庭教師初日

作者 : 君島恒星
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 美里は無表情でベランダから卵を投げていた。僕の足元で卵がつ
ぶれる。
「何してるんだ?」
「見てわからない? 卵を投げてるのよ」
 美里の投げた最後の卵は僕の額で炸裂した。僕はそのまま玄関を
開けた。
「こんにちは。鈴木ですけれども」
 スリッパの音とともに、愛想のいい母親が顔を出した。と同時に
額の卵にびっくりした。
「どうなさったんですか? 先生!」
 今日から、ここの家の娘の家庭教師をすることになっている。
「いや、鳥が飛びながら卵を産んだみたいで・・・タオル貸しても
らえませんか?」
「どうぞ、洗面所を使ってください」
 顔を洗っている時、美里は僕を見ていた。
 母親から娘の美里を紹介される。卵を投げていた時の無表情では
なく、笑顔で挨拶をしていた。親の前ではいい子なのだろう。美里
の部屋で、家庭教師の初日を迎えた。
「なんで、言い付けなかったの?」
「何でだと思う? 三回チャンスをあげよう」
 美里は無表情のまま首を傾けて考えこんでいた。
「家庭教師のアルバイトを失いたくないから?」
「違うな」
「ベランダのわたしに一目惚れしたから?」
「逆はあっても、それはない。ラストチャンスだぞ」
「当たったらいいことある?」
「そうだな。僕の初恋の話を教えて上げようかな。誰にも話したこ
とない貴重な話だ」
 美里は目を輝かせた。
「わたしと同じように卵を投げたことがあるからとか?」
「ピン、ポン。たまげたな。当たっちゃったよ」
「約束よ」
 僕は初恋の話を始めた。初日の勉強はどうでもよくなっていた。
僕の家庭教師は女子大生だった。勉強嫌いの僕は初日に卵を投げつ
けた。泣いて帰ると思ったけど、何も言わずに勉強を始めた。僕は
美里のように、何で言い付けなかった? とは聞けなかった。その
疑問は、いつか恋心に変わり、勉強にも熱が入っていった。彼女は
最後まで僕など相手にしてはくれなかったけど・・・
 初日は自分の話で終わってしまった。母親は言った。
「変わった子ですけど、よろしくお願いします」
「お母さん、自分の娘をそう言ってはいけませんよ」
 母親は恐縮していた。
 表に出てベランダを見上げると、目の前に卵が飛んできた。
「先生、またね!」
 美里は笑顔を見せた。気に入られたかもしれない。
「コントロール悪いな。ハートはここだぞ!」
 美里は爆笑していた。

第2回1000字小説バトル
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(有)オリムピック製菓

作者 : 穂室たまお
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 小さな製菓会社の事務所で、社長以下、全社員合わせて三人が机
を囲んでいる。
 その真中に、小さなガムのパッケージが一つ置かれていた。

 社長 「これが、わが社の命運をかけた新製品というわけか…」
 田中 「そうです。私と山田、二ヶ月の時間をかけて作り上げま
した」
 山田 「全力を出し切りました」
 社長 「そうか。ご苦労だった。で、このガムの特徴は?」
 田中 「は、コンセプトはずばり『常識がいつも正しいとは限ら
ない』これであります」
 社長 「ほほう」
 山田 「最近の、過剰なまでの健康ブームに警鐘を鳴らす、画期
的なガムです」
 社長 「健康はいいと思うが…」
 山田 「やりすぎはよくありません。なんでも程々に…」
 社長 「なるほど。で、このガムの特徴は?なんなんだ?」
 田中 「特徴ですか…。う〜ん…」
 社長 「いろいろあるだろう。虫歯になりにくいとか、自然の原
料しか使っていないとか」
 田中 「社長!」
 社長 「な、何かね。大声を出して…」
 田中 「そんな、大企業と同じ事をやって、我々が太刀打ちでき
るとお思いですか!」
 山田 「頭を使え!頭を!」
 社長 「だ、誰に言ってるんだ!」
 山田 「…あ…」
 社長 「あ、じゃ無い!で、特徴を言いなさいよ!」
 田中 「…まあ、しいて言えば、着色料一杯…」
 山田 「砂糖も、一杯…」
 田中 「しかもそんなに…」
 山田 「うまいわけじゃない…」
 社長 「いかんじゃないか!」
 田中 「いえ、実は一つだけ自信のあるところが…」
 山田 「これは結構マニア受けしますね」
 社長 「マニア受け?」
 田中 「そうです。このガムの命とも言うべきインパクト! そ
れをネーミングにして見ました」
 山田 「砂糖が多くて、着色料も二倍! ちなみに当社比!」
 田中 「このガムの名前は、これです!」

 田中が差し出した紙には、太い汚い字で『百害あってキシリ無し
っ!!』と書いてあった。
 三日後。(有)オリムピック製菓は午前と午後に一度づつ、不渡
りを出して倒産した。

第2回1000字小説バトル
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神様

作者 : 遼河
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 うーん。今日もいい目覚めだ。天気もいいし最高だなぁ……それ
にしても腹が減ったぞ。どうしたもんだか……誰もいないようだな
ぁ。あっマイケル、おはよう。あっおいおい勘弁しておくれよ。お
腹の上で寝るなって。俺は今起きたんだからなぁ……あぁーあ寝ち
ゃったよ。早くどけって!! くぅ〜何もできないと思って馬鹿にし
てるなこいつ。だいたいみんなそうだ。俺を見るとニコニコして、
愛想笑いも大変何だぞまったくもぉ……あぁ辛いねぇ人生ってさぁ。
この前だってそうだよ。人前でヌードショーだよ。変なおばさん達
の前でね。まぁ喜んでたこと。ちまたじゃヘアヌードだなんだって
騒がれているけど俺なんかヘア無しヌードただで見せ回ってるんだ
ぜぇ……寂しいね。
 あれ?……あっまたやっちゃったよ。何か冷たいと思ったんだよ。
お・も・ら・し……情けないなぁ。まったくさぁ。俺も長い事人生
やってきたけどいったい何度目なんだぁ。数え切れないよ。そうい
えばこの前へんなおっさんに言われたなぁ。こいつは何考えて生き
てるんだろうねぇってさぁ。何考えてるんだなんてまったく失礼な
話しだよ。馬鹿にするのもたいがいにして欲しいね。俺だって色々
考えて生きてるんだい!! 今日の飯は何にするとか、何して遊ぶと
か。
 それにしてもこいつ、本気で熟睡してるだろう。重くなってきた
ぞ。くぅ〜はっはっはっ、くぅ〜……どかないよ。ちくしょう、蹴
ってやれ。この野郎!!……届かない。よっしゃ、今度は揺さぶりか
けてみるか。お・り・ろ……ダメダコリャ。だいたいこいつ、猫の
くせに太り過ぎなんだよ。今に見てろ!! 仕返ししてやるからなぁ。
しっぽ引っ張ってギャフンと言わせてやるからなぁ!! 覚えてろよ。
はぁ〜意識が朦朧としてきた。腹は減ったし、下の方は気持ち悪い
感触するし、この馬鹿猫は重いし……あぁどうしよう、悲しくなっ
てきた……辛い、人生って切ないねぇ……もうだめだ、耐えられな
い。も。
 ビェーーン、ビエェーーン……エーーン、エーーン。
あれ? こないなぁ……くぅ〜神様にも見捨てられたのかなぁ俺っ
てばさぁ。じゃあさらにボリュームアップしてみるか。
 エーーン、エーーン、エッエッエッビェーン!! エッ……エーン。

「あっ遼河もう起きちゃったの。今日は早いね。はいはい、泣かな
いの。ほら、マイケルはどいてなさい。お腹減ったのかな? じゃ
あオムツ換えてミルク飲もっか? ねぇ。よしよし。ホラッおいで
……。」
 はぁ〜助かった。神様が来てくれた。それじゃ、よろしくお願い
します……。

第2回1000字小説バトル
Entry4

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(作者希望により削除)


第2回1000字小説バトル
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チクタク

作者 : 歌鳥
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 午後11時半。君は留守番電話に向かって、帰ったら電話をくれ、
と告げる。ベッドに横になり、本を開く。
 深夜0時。君は本を閉じて枕元の明かりを消す。それまで気にと
めていなかったはずの、通りを走る車のエンジン音を、君は意識し
はじめる。
 午前1時。車の音は途絶えたが、君はまだ寝返りをうっている。
暗闇に時計の音が、やけに大きく響く。
 2時。君は枕元の明かりをつける。読みかけの本を開き、十分後
には閉じて、明かりを消す。時計はすぐ耳元にあるように思える。
 3時。君は台所に向かう。冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ベッ
ドに戻って一息で飲み干す。口の中にビールの味が残り、君は渋々
歯を磨きなおしに行く。動いているときには気にならなかった時計
の音が、横になった途端に襲いかかる。君は耳を塞ぎたい衝動にか
られる。
 3時半。秒針が鼓膜に突き刺さる。君は時計を掴み上げ、床に投
げ捨てる。時計は沈黙し、君は安心して目を閉じる。
 午前4時。カーテンの向こうが微かに明るい。君はこれで何千回
めかの寝返りをうち――不眠の原因が、時計の音などではないこと
に気づく。

第2回1000字小説バトル
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虹の国 〜虹

作者 : 3104
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 とても遠いところにふしぎな森があるんだ。一年中みどりで、一年
中花が咲いている。そしていつもきれいな七色の虹が、森にかかって
いた。それはとても大きく森のどこからでも見ることができる。夜中
でも見ることができるんだ。
 夜の虹。想像してごらん。
 月明かりと無数の星に見守られて虹は森の全体をだまって見渡してい
るんだ。
 フクロウのフク子婆さんは毎晩、その虹を眺めて、
「フホーッ、フホーッ。」
と、感嘆の声をもらしている。

 森と虹のちょうどまん中には、たてにまっすぐ、ゆっくりと川が流
れている。
  この虹には他にもいくつか特徴があるんだ。 
 まず、キツネでも、魚でも、小鳥でも、だれでも虹にのぼることが
できるということだ。そして、みんなで楽しく、おしゃべりをするこ
とができるんだ。
 虹にのぼれる、どんな気持ちなんだろうね。キツネさんは、どんな
声でおしゃべりをするのだろう。ナマズさんは空を見て何を思うんだ
ろうね。
 タヌキのタヌ吉は虹に腰掛けて遠くを眺めていた。風に乗って真白
い雲がふわふわと進んでいる。その雲のまわりをトンビのトンゾウが
大きな円を描くようにのんびりと飛んでいる。それをのんびりと眺め
ているタヌ吉。
「おーいっ、タヌ吉ーっ。」
 虹の下でキツネのゴン太が大きく手を横に振っていた。
「おーいっ、タヌ吉ーっ。こっち、こっち。」
 ゴン太は横に振っていた手を縦に振りはじめた。タヌ吉は負けずに
大きな声で言った。
「お前がこっちへ来ーいっ。」
 タヌ吉は下から上へ、前から後ろへと大きく右手を仰いだ。
「バカヤロー、急いでいるんだ。早く降りて来ーい。」
 ゴン太は両足をばたつかせた。それを見たタヌ吉はつぶやいた。
「ったく、いつもおいらがここでのんびりしていると、あいつは邪魔
をするんだ。そりゃあね。おいらも、この虹は登るよりね、降りる方
が楽だということは分かっているんだよ。でもね、こののんびりとし
た気分は誰にも邪魔されたくないね。」
 タヌ吉は、立ち上がって二、三歩、進んで、足を前にぴょんと突っ
張った。そのまま虹の上に軽くしりもちをついて二、三回バウンドし
た。そしてそのまま虹を滑りはじめたんだ。両足を前に伸ばし、両手
を上に挙げ声を出した。
「ヤホーッ。」
 これがお気に入りのようだ。
 と、このようにすべり台として使うこともできるんだね。

第2回1000字小説バトル
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作者 : ロシナンテ
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 様々な感覚が私の意識に現れ、徐々に現実を理解し始める。重い
瞼をゆっくりと上げると、光の粒子が飛び込んでくる。その粒子は
清潔な芳香をもち、鼻孔をくすぐる。辺りには朝が奏でる静寂の音
があった。そういった感覚が、いつも私に朝を教えてくれるのだ。
 しかしその日は違った。左腕に彼女の重さが感じられないことで、
私は朝を知ったのだった。ゆっくりと体を起こし、辺りを見回して
みたが、やはり、何処にも彼女の姿は見あたらなかった。
「帰ったのか・・・・」
 私は我知らず呟いていた。はっきりしない頭で、彼女が帰った理
由を考えた。昨日の出来事を反芻してみる。彼女のぬくもりと控え
めな香水の匂いが、朝を夜に引き戻すようであった。ふと、私は彼
女の黒い皮のバックがあることに気付いた。彼女は帰ったのではな
かった。恐らく、買い物か何かで外に出たのだろう。そう思ったと
同時に、軽快な足音が玄関の外側に近づいてきた。私は、慌てて横
になって、シーツを被り目をつむった。何故、寝た振りをしている
のか、自分でもまるで分からなかった。

 朝は完全な朝になった。私は再び体を起こして、彼女の後ろ姿を
見つめた。彼女も気付いたらしく振り向いて、こちらを見た。
「朝だよ」
 彼女は再び私に朝を告げた。
「朝だね」
 私はそう答えて、朝という瞬間に満足すると同時に、その瞬間が
過ぎ去ったことが、妙に寂しかった。

第2回1000字小説バトル
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命名(アンゴルモア)

作者 : TAKUTO
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〈大きな彗星との衝突で恐竜が絶滅した〉と一般受けする仮説は、
殆どの学者は信じていない。確かに彗星は地球の衛星である第2の
月と衝突し、その衝撃で第2の月は地球の軌道を離れ、地球の地軸
にも変化が起こった。彗星のせいではあったが、恐竜の絶滅は、月
がひとつになったせいで重力が倍近くになり、その重力に耐え切れ
なかった為だ。人類にとっては、どうでも良かった事だ。しかし、
その第2の月が帰って来る。新しい地球の衛星となるべく6500万
年振りに。残った人類にとっては大変な事だろうが、私にはもはや
関係が無い。

 この文章は、今までの予言がほとんど外れた事が無いといわれた
角田という男性の、メモの抜粋である。これは、彼が亡くなってか
ら1週間程で見つかった。(別紙角田氏のメモ参照)
 当時このメモの内容についての議論が、世界中のいたる所でなさ
れたようだ。白亜紀の恐竜絶滅についての原因は、無論当時は結論
が出なかった。ただメモ発見と同時期に、地球に向かう彗星が発見
されてからは、地球の終わりか月が増えるかの世論で湧いた。
 しかし発見は、衝突(現在の新星日)の8日前であった。(別紙
新彗星発見報告書参照)
 当時は彗星を爆破させたり、軌道を変えたりするという対策も検
討されたが、これには時間が短すぎ、結局対策無しのまま当日を迎
える事となった。
 彗星は始め【ツノダの月】と命名されたが、各種宗教の終末説と
相互して、ノストラダムスの予言(ノストラダムスの参考文献なし)
で、アンゴルモアが降りてくるという記述から、角(アングル)の
月(ムーン)の名を一部の報道機関が取り上げ、それ以降彗星の事
をアンゴルモアと呼ぶようになった。(別紙さくら新聞参照)
 アンゴルモアの接近に伴い、いくつかの問題(暴動等)も発生し
た。しかし新星日になると、知られている通り……

 今では殆ど飲む人もないカフエを一口含むと、教授は頭を掻いて
採点結果を告げると、スクリーンを待機状態に変えた。
(ふーん。論文としては最低な文章だったが、よく10世紀も前の
資料を探し出したもんだ)

 小さかったが、やっと2mを超えた6才の息子の写真を見ると、
教授は伸びをした。
「さあ、今日は終わりだ」
 家族サイトに行くと、子供はまだ勉強らしく戻っていなかった。

 窓から、はるか下に見える水平線には、周りにスカートを穿いた
様に、月の残骸を散らばらせたアンゴルモアが、昇ってきていた。

第2回1000字小説バトル
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別人

作者 : 風祭にぎり
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 絨毯の上に落ちた縮れた陰毛を拾い上げた。じーっと眺めてみる。
臭いを嗅いでみる。口の中に含んでみる。柔らかく喉越しを滑って
いく。「ウォエー」嗚咽した。
 なにバカな事をしているのだろう。無意識の行動に自分は存在し
ない。別人の仕業だ。これはほんの一部の出来事。暇になるとこい
つが僕の頭を支配する。
 僕がこいつの存在に気付いたのは、小学生の時、進学塾での事だ
った。
 その日の授業は算数。もう飽きるほど予習をしてきて話しを聞く
必要がなかった。窓の外にいる行き交う人達をただぼーっと眺めて
いた。窓の外に目線が辿りつく前に一人の女の子が目に入る。別段
可愛いわけでもないし、特別な気持ちをその子に抱いていたわけで
もない。
 何時の間にか彼女の髪に手が伸びている。そーっと彼女を撫でる。
少女は振り向いた。嫌悪する彼女の目線。僕自身その目に気付きな
がらも、じっと撫でつづけた。
少女の目が、嫌悪から怯えに変わる。涙が彼女の頬を伝っている。
湿った泣き声が静かに教室に、こだました。
「斎藤、何してるんだ」
 先生の怒鳴り声に、塾生は僕一点に注目する。我に帰った。
「僕じゃないよ」
 咄嗟に出てきた僕の言葉に初めて、別人の存在を知った。

 それからというもの別人は僕が暇になると現れては、悪戯な行動
に走り僕を絶句させたり、笑わせたり、悲しませたり、救ったり、
弄んでいた。
 しかしながら、僕は子供の頃からプライドの高い少年だったので、
理論的な答えにならない存在の別人について、話す事はなかった。
 その事について、時々不思議なしぐさをとる僕は罵られる時があ
ったが、僕は相手の弱点を見つけてその何倍にもあたる攻撃的発言
をして罵倒した。
 別人を助ける必要はないと思いつつ、いつも周りに別人の援護射
撃をするような発言をするものだから、友達と呼べる人は何時の間
にか別人しかいなくなっていた。

 日本で一番オツムのいい大学を卒業して海外勤務となった。日本
から遠く離れた国に駐在していた時も、別人だけは時々現れた。だ
から僕は寂しくも無かったし、強い人ともいわれる大人になった。

 結婚初夜、僕達が夫婦になってはじめて愛し合った夜の告白。
「わたしにだってね、別人はいるのよ。その別人がね、あんなに嫌
だったあなたの事、好きになったんだから」
 僕の傍らに横たわる妻がいる。
「人のせいにするなよな」
「あれっ」
 二人して急に可笑しくなり吹き出した。

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中学三年生

作者 : 英俊
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うちのクラスの女子には派閥がある。男子にもあるが女子は完全に
真っ二つに別れている。一つはおとなしい感じのいつも絵なんかを
描いている全く無害な連中。もう一つは自分で自分のことをカワイ
イなどと勘違いしている、とにかくうるさい連中だ。そいつらはと
にかくやかましい。それでいて先生に何を言われてもびくともしな
い強靭な精神力を持っている。俺はそいつらは嫌いなわけではない。
確かに限りなくやかましいが、一緒になって喋っていれば楽しいし、
たいして面白くないことを言ったとしても男子のようにそれを指摘
したりなどしないし、おとなしい女のようにいやそうな顔もしない。
そいつらは笑ってくれる。結構やさしいのだ。気が強くてやかまし
いのだがそう言う奴等に限って心はやさしいのだ。だがそこに問題
がある。おとなしい女たちは本当に気を許せる人を友達としている
のだが、強くてやさしい奴等は顔やファッションのセンスなどで友
達を決める。本当に力というか才能を持った奴を友達として認める。
そして女は友達同士での喧嘩はほとんどしない。俺が思うにやさし
いからだ。それでいて女は楽しければそれでいい、いつも楽しくし
ていなければならない、喧嘩なんかすれば楽しくなくなる。そう思
っている。おとなしい奴等は腹立たしい事もないだろう。心を許し
ている相手を友達としてみているのだから。だが強い女は友達を顔
で決めている。相手の性格などは気にしない。だから相手に対して
腹立たしい事は山ほどある。それを影で誰かとグチグチ言う。そん
な情景は毎日見ている。だから俺は言う。「おまえらほんとは友達
じゃねえんじゃねえのか?」強い女たちは俺に反撃する。こういう
女達は自分達以外の人間に対してはどこまでも強くなれる。「うっ
さい、何であんたにそんなことわかんの」俺は根性が腐っているか
ら見た事をそのまま言う。「だってお前、この前A子の事ムカツク
って言ってたじゃねえか」女は認めない。「何言ってんの?そんな
事言ってないし、話作んないでよ!」「作ってねえよ、ていうかお
前A子いつも男にヘラヘラして気にくわないって言ってたじゃん」
「そんな事言ってない!!」女は認めようとしない。A子は泣き出す。
A子は俺の言った事を信じている。先生が教室に入ってくる。うち
のクラスの担任は、若くて小さな女の先生だ。A子が泣いているの
を見て先生がどうしたの?といって近づいてくる。俺はまた言う。
「いやお前泣いてるけどお前だってこの前こいつの事ムカツクよね
ーって言ってたじゃん。おあいこだって、泣く必要ないって」A子
は俺の顔を目を丸くして見ている。何でそんな事を言うの? とう
顔だ。先生は今どうなっているのかよく分かっていない。「どうし
たの? ちゃんと先生に話して」A子は周りの人達をかき分けて教
室を飛び出す。女子は誰一人追いかけない。「どうしたの!? 待っ
て!」力のない先生だけが走って追っていった。

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木蓮夜想

作者 : 瓜生瑠璃
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 幼少の頃を想うと、あたしは錦繍の心を身に纏い、大空を虚ろに
眺める夢を見て過ごしていた。あの大陸を飲み込むまでの大洪水が
起きた時でさえもあたしは水の中で魚になった。やがては水がひい
た後の石塁を積んだ土手の向こうを見に行くと、水面が渦を巻いて
いて、予想どおりの景色を食い入るように見つめて歓喜した。
 そして雨上がりの土手の斜面に淡く紫色に輝く木蓮を眺めるのが
好きだった。 
 父からおこずかいをもらうと、家族の食料を買う為に慶州まで足
を運ぶのが日課だった。  
 今、あたしはもうその場所には居ない。もうすぐ夜が来る。あた
しは昼間に買ってきた木蓮の六花弁を一枚、一枚千切りあの頃を想
った。  
 あたしは、陳が好きだった。陳は学生だった。彼は学費を稼ぐた
めにあたしの家に住んでいた。陳はあたしが母に叱られたときもあ
たしを庇ってくれた。陳はあたしにとってただ一人の友達だった。
あるとき陳は、笑いながら大きくなったら結婚しようと言った。あ
の頃はやさしい時間が流れていた。 突然世界が一変した。見なれ
ない軍服を着た兵隊達があたしの住む村にやってきた。父はあたし
に家の中に隠れていろといった。あたしは陳に何が起こったのと尋
ねると、彼は満州事変が起こったのだと教えてくれた。 
 刹那、銃の発砲する音が聞こえた。あたしは家の隅に行き、両耳
をふさぎ震えていた。そして陳が様子を見てくると言って外に出て
いった。陳はそれっきり帰ることはなかった。あたしはあの時の光
景を一生忘れないと思った。  
 あたしはもう一度木蓮の花弁を嗅ぎ、数を数えた。 
 一枚目は陳。二枚目は母。そして三枚目は父。 
 「琳香、何をしているんだい?」
 振り向くと、男に後ろから抱きとめられた。 
 「ウウン。ナンデモナイヨアナタ。」
 あれから孤児になったあたしは、兵隊に連れられて日本にやって
きた。兵隊の一人はあたしに親切にしてくれた。幼かったあたしに
は何もわからないと思ったんだろう。しかしあたしにはすべてわか
っていた。歴史の闇に隠れている真実を。その後あたしはその兵隊
と結婚した。 
 身よりもなくここに連れてこられた、あたしはそうするより方法
がなかったんだと自分にいいきかせた。 
 「琳香、俺のこと愛しているか?」
 男は憎憎しい微笑を浮かべた。 
 「…・・アイシテルヨ。」
 なにもかもわかってるくせに……。

 −あたしは今夜も花弁を数える。  

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未成熟

作者 : 伊藤 修
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 東京の産婦人科病院に、新卒看護婦として働き始めて四ヶ月が過
ぎ、先月から処置室勤務になった。
「生まれましたよ、元気な男の子ですよ!」
 処置室で中絶手術の準備をしている私の耳に、隣の分娩室から生
まれた瞬間の赤ちゃんの産声と、出産に立ち会った医師の声が聞こ
えてきた。私の作業の手が止まった。
「あなた! 中絶も看護婦の大事な仕事。まずは、この仕事をちゃ
んと覚えなさい!」
 先輩の叱咤が私の手を再び動かし、持っていた鉗子を医師に手渡
した。医師は手探りで妊婦の子宮内に宿る胎児を鉗子でつかみ、そ
れを粉々にして体外に掻き出す。次に吸引機で子宮内をまさぐり、
生命のかけらも残らないように処理した。稀にまるで子宮内を逃げ
回るように、医師の手を何度もすり抜ける胎児がいる。そんな時は
超音波ソナーの画面を見ながら止めを刺す。最後に術後管理の介助
をして、きょうの私の仕事は、これでやっと終わりになる。
 この病院では、一日に四、五件の出産があり、同時に五、六件の
中絶手術が行われている。中絶時妊娠三ヶ月までの胎児は、摘出し
てそのまま排水口に流してしまう。妊娠四ヶ月を過ぎると胎児も人
間の形をなし、男女の区別がつくようになる。この時期の胎児は摘
出後ホルマリン漬けにして保管し、一定量がたまると指定業者に渡
し処分する。

 私は処置室から出ると、すぐに婦長に呼び止められた。午前の部
で中絶手術を受けた女性が、摘出後の胎児を自分で埋葬して供養し
たいと申し出たそうだ。中絶を受けに来る女性は、殆ど術前に麻酔
をかけられると後は知らない間にすべてが終わり、何事もなかった
かのように去っていく。だが時折このような女性がいる。
 医師の指示に従い、私はホルマリン漬けの胎児たちの中から一つ
ひとつ遺体をピンセットで摘み出し、その女性の胎児を捜した。多
くの遺体はホルマリンに浸すと、やがて変色してしまうので、まだ
変色の浅い遺体はすぐに見つけることができた。

 一日の仕事が終わリ白衣を脱ぐと、いつものように焦燥に駆られ
た。どうしてこんな非情な仕事をやっているのだろう。こんなはず
じゃなかった! 人の生命を事務的に処理する毎日をこんな風に過
ごして、仕舞には慣れっこになってしまうのか。
 出しそびれた退職願を忍ばせたバッグを手に、私は夕陽に赤く染
まった病院を抜け出した。 

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物語と日常

作者 : あさ
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 佳香が東京に行ってAV男優とやったそうだ。
 かっこいい男であったとかテクニックがすごかったとか言うけれ
ど、そんなこと私には興味ない。高校へ向かう田圃の道は高架橋と
交差しており、上に新幹線が走っている、乗れば二時間ほどで東京
に着く、そこには雅也以外の男がたくさんいるかもしれない、けれ
ど私にはきっと何も関係ない。

 春の訪れを否定するような小雪混じりの風が吹いた日、自転車を
押して佳香と帰った。彼女が尋ねる。
「雅也一人で満足なわけ?」
 他の男とすることなど、全く想像できない。私はそう答えた。
「でも、飽きちゃったりしない?(笑)」
 その後彼女は、男というのはちょっとしたプレイで興奮するもの
だと、単純なものなのだと私に説明してくれた。雅也と会う日だっ
たので、私は彼女のアドバイスを信じることにした。彼は測量専門
学校の勤勉な学生なので、私は彼が一人暮らしをしている木造モル
タルアパートの部屋で彼の帰りを待つことになる。その時にいつも
の私服姿ではなく制服を着ていれば、必ずや彼は興奮するに違いな
い、佳香はそう言ったのだ。
 彼の部屋で制服に着替え、鏡を見た。野暮ったいセーラーが写っ
ている、東京で同じ歳の子らはもっと可愛い制服を着て援交とやら
をしているらしい、しかし私には関係ない。前に雅也は言ったこと
がある、本当に僕なんかで満足なのかと。どうしてそんなことを言
うか今でもわからない、私たちは付き合っているのだ。来年の春に
は二人とも卒業を迎える、その時思い切って結婚してしまうのも悪
くない、二人で住みたいねと雅也は言っていたのだ。
 彼が帰ってくるにはまだ間があったので、私は持ってきた雑誌を
広げた。薄い生地の服が特集されている、見るからに寒そうだった。
別のページではOLさんが上司の悪口を言っている、これも私には
関係ない。雑貨のページ。そうだ、東急ハンズには行ってみたい、
あと大きい本屋が近くにあるのもいい、でも、そんなことは別にい
い、ここで今まで苦労なく生きてきたのだから。

 ドアが開く音がする、私は玄関に向かった。驚いた顔をしている
雅也とスーツを着た女の人がいた。一生懸命考え、私が来ることを
忘れていた雅也が女を部屋に連れ込んだと認識した。月九のドラマ
でこんなシーンは何度も見ているし、佳香だったら制服が武器だよ
と言うだろう。だが「私」はどうしたらよいのだろう? 私の靴を
囲んで三人は微動だにしなかった。 

第2回1000字小説バトル
Entry14

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オオキくナれよ

作者 : 高島朝也
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 オオキナ島はその名に反してとても小さい島でした。
 島の人たちは、オオキナ石と島の人たちが呼ぶ小さな石に宿って
いる、オオキナ神を奉っていました。私もオオキナ石を見せてもら
いましたが、非常に優麗である印象を受けました。そのことを島の
人に伝えると大変気に入られ、翌日、オオキナ神の賜物と島の人が
伝えるオオキナ森へと案内されました。
 島の中心にオオキナ森と島の人たちが呼ぶ小さな森はありました。
森には、チイサナ木と島の人たちが呼ぶ大きな木が立ち並んでいま
した。私はこのチイサナ木に惹かれて森の中を歩き回りました。
 島の人たちがチイサナ木になるオオキナ実と島の人たちが呼ぶ小
さな実が落ちてくるのを拾って食べていました。
 私も一つほおばってみると、口の中でぷちんと音を立ててはじけ、
実の中に閉じこめられていた妖精たちが一斉に春を歌い上げるよう
な、それでいてその中に遠く故郷で流れる小川せせらぎと共に漂っ
てくる雪解けの香りが重ねられているような、そんな印象を受けま
した。
 しばらくのあいだ、私は光悦としてその場に立ちつくしてしまい
ました。私はオオキナ実を採りにゆこうと木に登りだしました。二
メートルくらい登ったところで島の人が気づき、オオキナ声とこの
島の人たちが呼ぶ小さな声で警告を発しましたが、夢中になってい
る私の耳にはほとんど届きませんでした。チイサナ木はオオキナ枝
と島の人たちが呼ぶ小さな枝しかつけないので、登るのはとても大
変でした。それでもわき目もふらずにチイサナ木を登り続け、七分
後には木の頂上にまでたどり着くことができました。私はそこにな
っているオオキナ実を一つもぎ取り、ほおばりました。あまりのお
いしさに再び光悦としてしまった私は木から滑落し、オオキナ音を
立てて地面に打ちつけられてしまいました。

 チイサナ木の魅力にとりつかれてしまった私は、なんとかしても
ち帰りたいと考えました。島の人たちに相談すると、彼らは突然ハ
ゲシイ怒りをあらわにし私に襲いかかりました。逃げる私を彼らは
オオキナ声を張り上げて追い回します。私は急いで森に逃げ込みま
した。彼らの声が聞こえます。
 そっちにいたか
 やまをさがせ
 いやもりだ
 彼らにいぶし出されながらも私はキビシイ警戒をくぐり抜け、命
からがら逃げ帰りました。

 いまでも私はオオキナ実をほおばるたびに、オオキナ島でのタノ
シイ日々を思い出しオオキナ声をあげてみるのです。

第2回1000字小説バトル
Entry15

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ストーカー

作者 : 東京りんご
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「いい加減にしてほしいねえ。なんで彼女につきまとうわけ?」
 警官がつまらなそうにボールペンを振りながら尋ねた。
 ぼくは白紙のままの調書を見下ろしながらいった。
「つきまとわないでくれ、といいたかっただけなんです。
 はじめ声をかけた時には、聞いてもらえなかったので、仕方なく
 後をつけたんだ。」
  
 夢の中でぼくは彼女に追われていた。
 名前も知らない。どこの誰かも知らない。
 それでいて、どこかで会ったことがあるような懐かしい顔が、追
いつき、かがみこんで、唇を重ねようとした。
「ほっといてくれ、たのむから!」
 ぼくはそう叫んで目を覚ました。
 快い余韻とともに、痛切な寂しさが押し寄せた。
 
 はじめは恋人と別れたショックのせいだと思っていた。
 精神的疲労からくる一時的な症状だと。
 別れた理由は特になかった。自分でもしばらく納得のいくような
答えは見つからなかった。
 あの夢を見て、はじめて知った。
 他人の存在は重荷なだけ……ぼくは誰かと一緒に生きていけるほ
ど、強くはなかったんだ。
 彼女が現れなければ、知らずにすんだのに。

 ある日ぼくは意外に身近な場所、駅のホームで彼女を見つけた。
 普通のOLの顔をして、ぼんやり時刻表を見上げていた。
 その時ようやく、あることに気がついた。
 ぼくたちは前にも会っている。ただ何気なくすれちがい、忘れて
しまっただけで……。
「まってくれ!」
 目があったとたん、彼女は声を無視してホームを横切り、気味悪
そうに振り返りながら、改札の向こうに消えようとした。
 ぼくは見失わないよう走り出した。
「きみだろ、きみなんだ。ぼくにつきまとっているのは。まって!
 逃げないで、話を聞いてくれ!」

 警官がまた退屈そうに聞いた。
「で、まだやるつもり? 次は注意だけじゃあ済まないよ。」
 ぼくは目を伏せた。
「いえ、もうしません。もっといい方法を思いついたんです。
 ……………これから帰って試してみるつもりです。」
 ぼくは自分が追われているんじゃなくて、逃げているだけだと気
づいた。だから立ち止まって、彼女を受け止めた。
 唇と唇が触れ合い、一つになった瞬間、何かをやり遂げたような、
まぶしい気分の中で目を覚ました。
 以来もう二度と、あの夢は見なかった。    

第2回1000字小説バトル
Entry16

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『ロクさん』

作者 : おーぎや
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「?」マークの黒い帽子をかぶって、擦り切れた青い半天を羽織っ
ている。薄汚れた便所サンダルを履いて、ぬすっとヒゲは伸ばし放
題。初めて会う人でもこいつがロクさんだとすぐにわかる。
「純」の扉を半分だけ開けると、タバコの煙と湯気の中に、さおり
は必ずロクさんをさがす。たいてい端っこに座っていて、左肩を壁
に預けて酒を舐めている。

「ロおクさん」自分が一番魅力的に見えるはずの笑顔でさおりはロ
クさんの顔を覗きこんだ。今日もロクさんは端っこに座っている。
さおりの笑顔につられるようにしてロクさんは右の口端にちょこん
と笑みをのせた。
 足が少し曲がっちゃって座りがすっかり悪くなっているイスをが
たがた引っ張ってくると、さおりはロクさんのとなりに座る。クッ
ションのカバーも破れているこのイスを好んで使うのは、さおりし
かいない。
「男山ください」普段着の笑顔で純子さんを呼ぶと、目の前に枡が
置かれて、酒がとぷとぷ注がれる。純子さんは何も言わない。
「かんぱあい」ロクさんを促すように枡を少し持ち上げて、今度は
自分の唇の先を枡の角に持っていく。

「こっちに出てきてからの方が長いんだ。いまさら帰郷れないよ」
 口数の少ないロクさんがさおりに言ったことがあった。さおりは、
ロクさんと呼ばれていることくらいしかロクさんのことを知らない。
郷里、仕事、本名、知らないことばっかりだ。歳はヒトマワリくら
い違うんだろう。
「おふくろが死んでね、今朝。おふくろも酒好きだった。酒を飲む
ことで供養になるのさ」
 横で聞いていた常連のあきさんが、口を挟んできた。
「悪いことは言わねえ。いいから一度帰郷ってこい」
 あきさんが不祝儀袋を買ってきて、さおりも純子さんも一緒に金
を包むことにした。
 十日くらい前のことだったか。

「お母さんの供養、ちゃんとしてきたの」さおりはロクさんを見な
いで聞いた。ロクさんは曖昧に「ん」とだけ言って便所に立った。
 さおりは溜息をついて、昨日のあきさんの言葉を思い出す。
「ほんとにロクデナシのロクだな。ロクの野郎は。スナックカオリ
で飲んでんの見かけたんだけどよう。香典袋から金出しやがったん
だぜ。あいつ」
 さおりの酒が半分くらいになって、ロクさんが便所から戻ってき
た。さおりは黙ったままで擦れ違いに便所に入る。
 便座がおりている。
 さおりは便器と向き合ったままでゆっくりと膝をつき、便器を抱
えるようにして左の頬を便座に押し付けた。

第2回1000字小説バトル
Entry17

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因果

作者 : 渡会 悠
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 戦争の原因は誰も知らない。俺が生まれた時にはもちろん、親父
やじいさんが生まれるずっと前から、戦争は日常だった。目的も分
からない。敵が隣村であることしか分からない。
 俺が10才の時だった。隣村のヤツらが夜襲をかけてきた。当時
戦況は落ち着いていて、このまま終結するかと思われていた矢先の
出来事だった。ふいをつかれた両親は、俺を戸棚の中へ隠すだけで
精一杯だった。隙間からこぼれる部屋のあかり。両親は……俺の目
の前で射殺された。暗がりの中、俺は体が動かなかった。唇を噛み
しめ、涙を流し、ただ見つめていた。目をそむけるな。この悲しみ、
憎しみ、怒りを体に刻み込むんだ。忘れるな、あいつの顔を。両親
を殺したあの男の顔だけは、絶対に忘れるな。
 この夜、村は一度滅んだ。
 それから15年。生き延びた俺たちは村を復興しながら、密かに
戦力を蓄え、隣村の様子をじっと窺ってきた。そして新月の夜、俺
たちは隣村を襲撃した。平和ボケしたヤツらは抵抗することもなく、
あっけないほど簡単に死んでいった。
 何軒目の家だっただろうか。この15年、一時も忘れたことのない
顔があった。穏やかな表情になってはいるが、見間違えるものか。
あいつだ。
 「この家は俺一人でやる。誰も手を出すな!」
 俺の家族を皆殺しにしておいて、自分は幸せな暮らしを送ってい
たのか!あの日、お前さえ来なければ、俺たちは幸せだったんだ。
畜生。この野郎。
 俺は、あの日以来体の中で育ててきた15年分の憎しみを機関銃
に乗せ、一気に吐き出した。
 長い夜が明けた。隣村は焼かれ、しばらくは黒煙が立ち上ってい
たが、やがて消えた。
 俺は結婚し、家庭を持った。長年憧れた平和で温かい理想の暮ら
し。幸せだった。
 しかしその幸せも長くは続かなかった。子供の10才の誕生日を
祝っていた時だった。隣村の襲撃を受けた。油断していた。俺は慌
てて子供を戸棚に隠した。扉を蹴飛ばして入ってくる青年の一団。
中の青年の一人が俺をじろりと睨みつける。
 「この家は俺一人でやる。誰も手を出すな!」
 ああそうか。そうだったんだ。この青年は、あの日の俺なんだ。
 憎しみの銃弾を全身に浴び、薄れてゆく意識の中、俺はこの戦争
が終わらない理由をはっきりと理解した。 

第2回1000字小説バトル
Entry18

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隠し専門

作者 : 海坂他人
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 そこは、坂の途中の、よじれたようなT字路の突き当たりだった。
「隠し専門」
 ある店の前に、こんな看板が、風を受けて回っている。
 ぼくは、信号で止まったバスに乗っていた。隠し専門、隠し専門
……この四文字が頭の中でくるくる回るうちに、ぼくの指はいつの
間にか、停車ブザーを押していた。
 バスを降りて、後戻りし、その店に入ってみた。
 隠すというからには、貸金庫か、貸倉庫のような商売かと思った
が、狭い店内にはまるで手芸店のように、いろいろな布が並び、老
婆が一人、店番をしている。
 聞いてみると、貸金庫でも、手芸店でもないという。
――今どきはポッケットですが、
隠しと言ったものでございましてね、昔は、と彼女は言った。ここ
にある布で、お客様の好みに応じて誂えて差し上げております。
 ぼくも、一つ作ってもらって、上着の胸の裏に釦で留めて、その
店を出た。
 家に帰って、さっそく、老婆の言葉を確かめてみた。
――外見の大きさは普通ですが、容量は無限大です。入れられない
ものはございません。
 まじめな顔をしてこんな事を言われても、二十二世紀でもあるま
いし……と疑っていたのだが。
 隠し場所にそろそろ困っていた、写真春本を十冊ばかり入れてみ
た。
 苦もなく呑み込まれてしまった。
 世間の方々には隠したいものが多うございますようで、と老婆は
言ったが、確かに重宝なポケットだった。親には見せたくない答案、
そのあたりで拾った子猫。
 しかし、不思議に必ず見つかってしまうのだった。答案を隠して
も、学校から連絡が行くし、子猫は外でミルクを飲ませているとこ
ろを捕まった。
 そこでぼくは、決して誰にも知られたくなくて、そして絶対に見
つからないものを、隠すことにした。
 それは、ある一人に向かう矢印を持つ、自分の感情。対象は、同
じクラスの子だった。

 次の日学校に行くと、一つの机が、一日中空いていた。
 次の日もまた次の日も、机の主の姿は見えなかった。教師も平気
で点呼をとり、生徒たちも気にする者は誰もなかった。
 ぼくはポケットに隠したものを、早く出さなければと考えた。し
かし出すのも怖かった。中を探ってみると、とくん、とくん、と暖
かく手に触れる。
 最後にぼくは、自分がこのポケットに飛び込むことに決めた。

 そこはT字路の坂の途中の「隠し専門」の看板の前だった。

 ぼくの目指すべき先は、一つしかない。隠した感情をつかまえて、
言葉に表すために。

第2回1000字小説バトル
Entry19

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宇宙刑事

作者 : ポギィ
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文字数 :
俺は宇宙警察で働いてる。が、暇なもんだ。昔の様に宇宙海賊も
居なければ、転職しようにもこの不況で新しい職さえ見つからな
い。お、本部からの無線だ。
「はい。こちらB3、どうぞ」
「悪いが今から太陽系にある地球へ飛んでくれ。宇宙連合の会費
を納める気配が無いんだ。そこでA5を向かわせたのだが一向に
連絡が無い。至急A5の消息確認と、地球に会費の催促をして来
てくれ」
「了解」
全くあんな文明の低い所でA5も何してんだ。もしや地球人に殺
られたか。もしそうなら俺も気を付けなければ。けど俺には超ス
ーパーブラボー最強兵器の重力ビドンがあるから殺られやしない
けどね。え、これがどんな武器だって、知らないの。重力操作が
出来て、星の一つくらい簡単に破壊しちまう優れ物なんだ。けど
一体俺は誰に話してんだ、俺は危ない人か。とりあえず地球に向
かおう。太陽系の地球っと、案外近いね。ワープ8で一分弱か。
もう着いたぞ。さぁ、着陸しよう。何だ何だ、着陸と同時に変な
のが来たぞ。あの乗り物は恥ずかしくないのか。何か言ってるぞ。
「来たなぁ悪者、お前が来るのは解ってたんや。わいらの秘密基
地のレーダーがお見通しやっ」
悪者って俺か。その上お見通しやってこんなでかい船が来たら一
目で解るようだが。おいおい、突然襲って来たぞ。それも5対1
かよ、やってられないぜ。けど、やたら弱いし、どんどん俺の攻
撃が当たっていくじゃん。
「めっちゃやばいやん。変身しよ」
変身してまで戦う気か。なんだよこいつら、5人でポーズ決めて
るよ。今の間に攻撃しても良いんじゃないの。ほら、簡単に当た
る当たる。
「お、おい卑怯やで、変身中は攻撃せんのが常識やろ。ちょっと
待ちぃや」
なぜ怒るんだよ、仕方無い待ってやるか。
「アースレッド」「アースブルー」「アースイエロー」
「アースグリーン」 「アースピンク」
「5人合わせて正義のアースレンジャー」
5対1で戦う事が正義なのか。A5はこいつらに殺られたのかな。
けどこいつらなら勝てそうだが。まぁいいか、やっぱり弱いな。
「あかん最後の手段や。アースロボ発進」
おいおい、まだやるのかよ。なんだぁ、逃げてくぞ。最後の手段
はどうした。あの変な乗り物に乗ってこっちに向かって来るぞ、
轢殺すつもりか。
「チェンージ・ア・ゴー」
そいつで合体するのか。
「さぁこれでお前の悪事も最後やで」
それにしても俺がいつ悪事をした。けど、確かにロボット相手で
は辛いかも。しかぁし、超最強・・・まぁ良い、ビドン発射。

…どっか〜ん…

威力が強すぎたか木端微塵だ。A5はこいつに殺られたのか。普
通はビドンなんて持ってないし。まぁ良い、仕事仕事。地球の一
番偉い奴の所に行ってっと。その後俺は上司に報告し、しばらく
して退職、今では宇宙の平和を守る為に海賊稼業に勤しんでる。
もちろん相棒は地球で活躍したビドンだ。

第2回1000字小説バトル
Entry20

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DOREI

作者 : よしよし
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 美しいものに目がないのは女の性。靴にバックにアクセサリー欲
しくなったら我慢できない、買って買って買い捲る。お金は男をだ
まして貢がせる。それが当たり前だった。そう、昨日までは。

 上気した頬を男とは思えないほど細くてしなやかな指がたどる。
今日逢ったばかりだけど、この高級マンションも彼の小奇麗な顔も
気に入った。でも、ちょっとだけ気になるのは、バスルームで見つ
けた長い髪と、ベットに落ちてた片方だけのイヤリング・・・。
「付き合ってる女とは全部別れるよ」
 そんな私の心を察したような甘い囁き。
「いつでも遊びに来るといい」
 口付けと一緒に、そっと渡された部屋の鍵。

 その後、彼は付き合ってた女達と別れた。そう、確かに付き合っ
てた女達とはね。

「新しい女を作らないとは言わなかったはずだ。文句があるなら出
ていけよ」
 凄艶な笑みををたたえて、彼がドアを差す。
「あんたに捨てられるくらいなら死ぬわ」
 捨て身のセリフで落ちた一瞬の沈黙。やがて彼は眉一つ動かさず
無言のまま、こちらに何か投げてよこす。床に刺さったそれはテー
ブルナイフだった。
「死ぬんだろ?」
 跪いてナイフを引き抜き、青ざめる私の手を取って握らせる。
 彼はもう一度だけ華やかに微笑むと、もうこちらを見ようとさえ
しない。ソファーでゆったり足を組み、煙草に火をつける。

 知らぬうちに涙が頬を伝っていた。記憶にある限り人前で泣いた
のは初めてだった。もう頭の中が真っ白で、私は静かに仰のくと目
を閉じ、鳴咽で上下する喉にナイフの刃先を向けた。
 ピッ。ピッ。ピッ。
 広い部屋に小さな電子音が響く。息を呑む私の目に映ったのは携
帯を手にした彼の姿だった。
「あ、もしもしユミ? 俺。今ヒマ?」
 ヒィッと喉が鳴る。気が付くと彼の手から携帯を奪い、その頭上
にナイフをかざしていた。
 しかし彼は動じる様子もなく、静かに私を見詰め返してくる。
 なんでなの? なんでそんなに優しく見詰めるの? 私に死ねって
言ったのに。
 なぜ? なぜ、髪に触れるの?
 やめて! お願いよ、そんなに優しく髪を撫でないで。
 震える手からナイフが落ち、求められるままに口付けを交わす。
その時になって初めて彼から奪った携帯が何処にも繋がっていない
こと気づいた。
 なんだか自分が可笑しくて悲しい。
 それでも私はこの男に縋るしかない。お願い捨てないでと、あな
たのためならナンデモするからと。泣きながら縋るしか。

第2回1000字小説バトル
Entry21

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きかい

作者 : 笑夢いとう
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 丸い視界の中央には、十字が刻まれ、右斜め下には距離を示すメモ
リが表示されている。俺にとって、スコープ越しの風景が全てだった。
 ニ脚架に載っているライフルは、体の一部といえた。いや、体がラ
イフルの一部であるというのが正確だろう。トリガーにあてがった人
差し指は、部品だ。そして、無線機からの命令が、それを引かせる。
俺は、茂みの中に溶け込んだ機械に過ぎない。

 イヤホンが雑音混じりの声で方位を告げる。スコープを向けると、
何かを肩に担いだ人間が、廃墟の風景に映えている。後方の高台から
は、兵器を担いだ敵兵に見えるのだろうが、TVカメラを担いだ民間
人だった。無線機は受信専用。物資不足のため、故障機を使わざるを
得ない。イヤホンは射撃を命令した。人差し指が震え、口内に苦味が
広がる。少しばかりの躊躇…。
 
 口調を強めた音声が再度命令を下した。動揺と葛藤は払拭される。
十字を男の胸部に重ね、呼吸を止め、静かにトリガーを引く。銃床か
ら肩に反動が伝わる。乾いた銃声。薬莢が宙に舞い、男がスコープの
中で卒倒する。
 どうせ機械になるなら精度が高い方がいい。それが、俺の僅かなプ
ライドなのだ。


 戦闘に巻き込まれ、銃声の反対方向に本能的に逃走した。そして気
づいた時、俺はここに立っていた。
 スナイパー通り… 廃墟に囲まれたこの国道の別名だ。ここを挟ん
で、二つの勢力が互いに睨みをきかせている。この通りで狙撃された
兵士を取材したばかりだ。全身の血の気が引き、膝が震える。下腹部
に圧迫を感じる。すぐにでも失禁しそうだった。

 右手に掴んでいたカメラを肩に載せた。ファインダー越しの風景は
急に現実感がなくなってしまう。まるで俺の眼球が、カメラの一部に
なったような感覚だ。そこに映る風景は絵空事、茶の間のテレビ画面
と同じだった。
 この通りから、左右に広がる両陣営を撮影した局が無い事を思い出
す。カメラは俺に貪欲な精神を授けてくれる。両膝の震えがピタリと
止る。視野の震えも止り、画面が鮮明に落ちつく。

 カメラをゆっくりと旋回させる。崩れたビル、その壁の密な弾痕、
榴弾砲でえぐられた道路のクレーター。しかし、まるで現実感はなか
った。演出を失敗した戦争映画のようだ。
 画面が一瞬明るくなった。すると、突然カメラが重くなる。両膝に
踏ん張りが効かない。胸を鋭い物が貫いた。
 銃声は聞こえなかった。ただ、現実的な暗闇で視界がいっぱいに
なっていた。

第2回1000字小説バトル
Entry22

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モルヒネ

作者 : 鹿野 まどか
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 ポケットの中にモルヒネが入っている。
 白っぽく光るその結晶群に、僕の興味は掻き立てられた。身を乗
り出した僕に、一子は意地悪くモルヒネがアヘンの主成分であるこ
とを告げた。苦くて、中毒になるのよ。僕の指に触れさせぬよう、
薬包紙に包み、小さなビニール袋に入れると、一子は得意げに笑っ
た。あんたにあげる。
 受け取った僕の頬は冷たかった。けれど、指先はジンとくすぐっ
たくなったのを覚えている。どうして一子がモルヒネを差し出した
のか分からなかったが、一子が僕に何かをくれるということが、と
ても嬉しかった。
 その頃の僕と言えば、すこぶる体が弱かった。熱を出す度、もう
死ぬんじゃないかと思っていた。その度一子は、あんたが死んだっ
てどうってことないわと、いつも笑っていた。
 そんな一子の態度は溜まらなく僕を悲しくさせたが、一度だけ、
死んだらあたしとキスできないわよと囁いてきたことがある。そし
て熱にうなされる僕に覆い被さり唇を重ねた。重なった唇から一子
の震えが伝わってきて、僕はそっと目を閉じた。
 それは、モルヒネのようなキスだった。
 けれど、実際一子から貰ったモルヒネを使ったことはない。アヘ
ンの主成分であるモルヒネは、僕にとっては恐ろしい麻薬でしかな
かった。どんなに体が熱くても、苦しくても、呼吸が荒くても、僕
はパジャマの胸ポケットに手を当てて、中でくすぶっているモルヒ
ネに挑むように呟いた。絶対に使わないぞ。熱い息を吐きながらい
つも呟いていた。

 あんたは詐欺師ね、と一子は笑う。すっかり弱々しさの消えた僕
に向かって意地悪く目を細める。あの守ってあげなくちゃと思わせ
る、可愛い少年はどこへ行ったのよ。
 よく言うよ。僕は今でもポケットに忍ばせているモルヒネを意識
しながら、口を曲げた。随分いじめられた気がするがね。
 一子は笑った。あれはあたしの愛よ。うそぶいて囁く。甘い甘い
愛なのよ。

 これが愛ねぇ。ポケットの中からモルヒネを取り出し、僕は胡散
臭げに眺めた。
 ビニール袋の中には、薬包紙に包まれてモルヒネが眠っている。
潮解してシミを作り、甘い香りを放っている。
 どっちが詐欺師だよ。かなり無理のあるモルヒネに頬が緩む。一
子のモルヒネはきっと砂糖のごとく甘い。
 くつくつと笑いながら、確かにこのモルヒネには一子の愛が詰ま
っていると思った。
 出来そこないの甘い甘いモルヒネに、僕はすっかり中毒だった。

第2回1000字小説バトル
Entry23

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真夜中のウサギ

作者 : オザキトラ
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   天井にはユラユラと紫の煙が立ち昇っている。
 午前2時、洞窟のようなその店で男を拾った。
 男はとてもカタチのいい身体に、ヒヤリと尖った眼を持っていた。

 男とふたり、真夜中のビルの谷間を歩く。
 夜昼眠らずはしゃぎ過ぎる街の喧騒が、カサカサ乾いたウサギの
瞳に容赦なく突き刺さる。
 街はずっと爆破の時を待っているのだとウサギは思う。汚されて
ゆくだけの哀れなコンクリートの怪物達には『華やかな崩壊』それ
以外、観る夢も他に無い。
 街で生まれ、街で育った。気づいた時には病んでいた。ただニン
ゲンとして酔って笑って暮らしたいと望むのに、僅かに残るケモノ
の心が『 何もかも壊してしまえ 』と命ずるのだ。

 街の夢が静脈をヒタヒタと侵食してゆく。
『ここでヤって。』とウサギは囁く。ここで自分を切り裂いて。
 脅えるばかりの無力な自分を忘れる為に、ウサギは欲望に眼を凝
らす。知恵を捨て、道徳を捨て、感情を捨て、凍り付いた自意識か
ら逃げ出せたなら、どんなに正直に優しくなれる事だろう。
 男は勘の良い従順さで、ウサギをコンクリートの壁に押し付ける。
冷たいコンクリートの居心地の悪さも、背中に走る痛みも、何もか
もが快感に感じる。キラキラ光る街の灯りに内臓まで曝け出して、
例えば明日の朝、轢き殺された猫の死体のように無防備にアスファ
ルトに転がっていたいとウサギは思う。
 もっと残酷に、もっと厭らしく、街の夢を終わらせてとウサギは
叫ぶ。

 気がつくと見知らぬ部屋で、薄い闇の中、男の体温がぼんやりと
ウサギを包んでいる。
 ウサギはそっと男の腕を噛む。もし自分が肉食の獣であったなら、
今すぐ男の喉仏に食らいつき、餓えた心を満たすだろう。けれども
鋭い歯も持たない哀れなウサギは、生け贄にもなれぬまま、こうし
て又お腹を空かせて目覚めるのだ。
 苦しい想いに沈みそうなウサギの体を、男の指が優しく撫でる。
『あなたはきっと知らなかっただろうけど、僕はずっとあなたを観
ていた。』
 思いがけず柔らかく静かな声で、男が囁く。
『あなたが何時も哀しそうに見えたから、僕はあなたと話しがした
いと思っていた。』
 男はニンゲンらしいやり方で、とても上手にウサギの身体を抱き
締める。

 イッタイ ナニヲ? どうやって話せば良いのだろう。

 鈍感な暖かさの中でどうしようもなく途方に暮れて、ウサギは男
の喉仏をじっと見ている。

第2回1000字小説バトル
Entry24

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ソルティ・ドッグにどうかよろしく

作者 : ヒモロギ
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 潮が満ちると、潮犬たちは波打ち際までやって来る。穏やかな波
ともいえぬ波でしばし波遊びに興じ、夕暮れには引いていく潮と共
に沖に帰る。二十年経ってもこいつらといったらまるで何も変わっ
ていない。

 父さんはバナナの叩き売りを生業にしていた。子供の頃、バナナ
の山を積んだリヤカーを引く父さんの後ろにくっついてこの堤防の
道を何度となく往復したものだった。父さんは口上が下手で、その
うえ対人恐怖症で、しかも扱うバナナときたら青くて不味くって。
僕を含めた人間一般と面つき合わせてまともに話のできなかった父
さんは、いつも行き交う人々に背を向け、海に向かって通り一遍の
口上を呟き、そしてその呟きは潮騒がみんなさらっていった。そん
な風であったから客なんか稀で、構ってくれるのは潮犬くらいのも
のだった。潮犬たちは魚やサンゴ、時には真珠なんかを咥えて波打
ち際に現れ、アンアンと鳴く。それを聞いた父さんと僕は砂浜に降
りて、実に原始的な物々交換を始めるのだ。いつしか僕ら親子は、
堤防より砂浜にいることのほうが多くなっていた。

「今は何をしてらっしゃるの?」
 「ご愁傷様」とか「この度は本当に」なんていう一通りの挨拶の
後、近所のおばさんが遠慮がちに聞いてきた。
「一応、若くしてロボット工学の権威です」
 我ながら嫌味な奴だと思う。でも、二十年前に僕らがあなたたち
から受けた嘲笑に比べれば、こんなもの。

 潮犬はひどく臆病で、人が近づけば海に潜る。八百屋で買ったモ
ンキーバナナを放り投げてやっても、用心してのことなのか口をつ
けようとしない。そういえば、なぜか父さんのバナナだけはいつも
美味そうに食べてたっけ。

 潮犬型のロボットを作ってみた。警戒を解いてくれるだろうか。

 潮犬たちは波間から頭だけを出し、僕と僕のロボットを不思議そ
うに見ている。スイッチを押すとロボ犬はゆっくりと三歩ほど歩き、
砂浜に足を取られて転倒し、ガーと一声鳴き、加えていたバナナを
噛み砕き、グリングリンと首を回しネジを飛ばしバナナを飛ばし、
フラリと起きてヨタリと歩いて石につまづきバナナに滑ってひっく
り返ってそれっきり、動かなくなった。

 壊れた。僕は砂まみれのガラクタを呆然と見つめ、潮犬たちはそ
んな僕を波の合間からじっと見ている。そしてガラクタの頭部から
バネの力でビヨンと飛び出たシリコン眼球には海の向こうの入道雲
でも映ってるのか、潮風にビヨンビヨンと揺れている。

第2回1000字小説バトル
Entry25

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政宗 −小田原前日−

作者 : モーゲン王
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 政宗は秀吉への恭順を決意した。
 彼には奥州探題の名門・伊達家の主としての矜持があった。また
父の仇敵の体躯を力任せに五分刻みにするほど獰猛な若武者でもあ
る。屈服など考え難かった。
 だが秀吉は上杉・徳川・真田ら数多の大名を従え、二十数万もの
大軍を小田原に着陣させた。朝廷に奏上して発せさせた停戦の詔を
無視した北条家を朝敵として滅する名目である。これを征伐した後
は、同じく勅令を無視し領地を広げた伊達家にも迫るのは必定だっ
た。奥州では悉くを斬る勢いの政宗も、二十万余が相手では勝算は
絶無。遅参への叱責も覚悟の上で秀吉の許へ畏まりに行かねばなら
ぬ。即座に首を刎ねられるかもしれぬが、合戦に及べば城ごと壊滅
する。ならば死中に活を得るしかなかった。

 小田原出発の前日。
 政宗の母・義姫が自ら手料理を振る舞いたいと申し出た。
 思えば、隻眼ゆえか母には疎まれて育ち、その愛情は専ら弟の小
次郎に向けられていた。なぜ母に抱いてもらえぬのかと煩悶した幼
少の砌を、政宗は苦笑と共に思い出す。
 その母とも今生の別れになるやもしれぬ。
 政宗の眼前に膳が運ばれた。菩薩の笑みで見守る母の前で合掌し、
味噌汁を一口啜る。
 静かに箸を置き、直後、堪え切れず嘔吐した。控えていた腹臣・
片倉景綱が吃驚して駆け寄ったが、政宗は咳込みながらもそれを手
で制し、懐中から丸薬を取り出して飲んだ。

 義姫はいつの間にかその場から消え、そのまま伊達家を出奔した。
考えられる行先はひとつしかない。
 隣国の最上家。彼女の実家である。

 政宗が母に毒を盛られたのは、愛だの情だの、そんなものの所為
ではない。義姫は兄である最上家当主・義光の指図で動いていた。
秀吉の許へ恭順に向かう政宗を、腹の中で「弱腰」と軽蔑している
家臣も少なくない。出発前の政宗を弑すれば凡庸な小次郎を後釜に
据えるのは容易と義光は目論み、謀った。
 政宗はそう睨んでいた。秀吉に殺されるならまだしも、と伯父へ
の憎悪を覚えた。
 実際、後に伊達家と最上家の間に合戦が勃発する。

 政宗が周到に解毒丸を持っていたのは、母に毒殺される可能性を
予見していた証である。しかしそれでも、母の初めての手料理を食
さずにはいられなかった。そして裏切られてもなお母を憎悪できず
にいる。
 獰猛さのなかに別物が潜んでいる、と片倉は思った。
 真紅に染まった太刀を片手に、濡れた隻眼で弟の骸を見下ろす男
の青白い横顔を見ながら。

第2回1000字小説バトル
Entry26

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「ほおのみ」と読んで下さい。

作者 : HCE
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 君が何か美味しいものが食べたいって言うから僕は内心ガッツポ 
ーズ。ここで君のほっぺが落ちちゃう程うまい物を食べさせればオ
ーケーな訳。だから君の大好きな、チーズを使って最高の料理を出
してくれるお店を見付けておいたんだ。 
    僕は馬鹿だから君に色んな物を押し付けてしまったね。ペンダン
トとか色鉛筆とかオレンジ色のバラだとか。君にしてみればただの 
迷惑だったかい。でもね。どうすれば君が喜んでくれるのか、ああ、 
僕には判らないんだよ。 
 君と食事をしていると何でも美味しくなっちゃうから自分のほっ 
ぺにも気をつけなきゃな。男がちょっとやそっとで嬉しがっちゃい 
けないだろ。フォークが君の口に運ばれる間の長かったこと。 
 君の左ほっぺが重力に耐えきれなくなって垂れ始める。もう少し 
だ。ほっぺの塊と顔を繋ぐ皮膚がみるみる細く、長く、色を失くし 
ていく。自分では見られないかも知れないけどヨーヨーとか振り子 
みたいだよ。 
 そうやって君がゆっくりと味わっていると、ほっぺが落ちた。も 
う完全な球体になってテーブルに弾んでいる。 
 顔にも落ちたほっぺにもほんの小さな跡が残っているけど、そん 
なのはすぐに消えちゃうんだ。君はやせっぽち。小さな頬実。 
 君が目を閉じているうちにそっとポッケに。ドキドキしながら肌 
触りをポッケの中で楽しむ。 
 今僕のほっぺも緩み始めてはいないかな。気付かれてしまう気が 
して、何だか恥ずかしいよ。 

第2回1000字小説バトル
Entry27

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精液と聖書

作者 : Matock
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 鉄格子の中から看守に引きずられるようにして出てきた少年は、
まだ十六歳だった。幼さが残っている面立からは、彼が自分の父親
を殺した犯人だとは、とても信じられなかった。
「糞牧師かよ」
 言うなり、彼は私の顔に唾を吐いた。殴ろうとする看守を制して、
私は彼と二人きりにしてくれるように頼んだ。

 彼は手錠を掛けられたまま面談室の椅子に腰掛け、机の上に足を
乗せた。
「俺が何で親父を焼き殺したのか、訊くように頼まれたんだろ?」
 私は頷いた。
「喋らないぜ、俺は」

 沈黙の面談は一週間、続いた。
「なあ、何で訊こうとしねぇんだ?」
 遂に彼が質問した。私は閉じていた目を開いた。
「君が話そうとしない事を、無理に訊こうとは思わない」
「なら、俺が訊くけどよ、あんた、俺といる間ずっと目ェ瞑って、
一体、何をしてるんだ?」
 私は彼の目を見て、ゆっくりと答えた。
「君の父上の魂が天国に召されるように、と祈っている」
 案の定、私は首を折られるかと思うほどの勢いで胸倉を掴まれた。
「そんな事をするんじゃねえ、あいつは地獄に堕ちて当然の屑野郎
なんだッ!」
「しかし、私は君の父上の事をよく知らないからね」
「分かったよ、話してやるよ。そうすりゃ、あいつのために祈ろう
なんて気は失せるだろうからな」

「去年、お袋が癌で死んでからだ。親父は聖書に異常な愛情を注ぐ
ようになった。例えばだ、親父は聖書と一緒に風呂に入る。食事時
にはパンとバターを聖書に挿んで、コーヒーをかける――食べさせ
てるんだ。
 それじゃあ読めなくなるって? 大丈夫さ。親父は聖書を何百冊
と持っていたからな。ダメになったら火葬して、次のが親父の新し
い花嫁になるんだ。この意味が分かるか?」
 彼の目が狂おしく光った。
「親父は聖書と契っていたんだッ! しかも、あいつは精液まみれ
のそれを持ってきて、俺にも同じ事をさせようとしやがった!
『これでお前も獣から人になれる』と言ってよ!
 そうさ、親父の家族は聖書だけで、息子の俺は物かペットでしか
なかったんだ。食事も床の上で犬のように食べさせやがって、話も
まともに聞きやしねぇ、挙げ句の果てに変態の仲間入りをしろ、だ
と?
 だから俺は親父をぶん殴って、それと一緒に焼いてやったのよ!
本望だろうぜ、実の息子より大事な聖書とあの世に行けたんだから
なあ!」
 彼は泣いていた。私にはただ彼を抱きしめて祈る事しか出来なか
った。

 主よ。我らを救い給え。アーメン。

第2回1000字小説バトル
Entry28

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今時、無垢な人

作者 : 藤原しおり
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 インドでは普通に英語を使っていた。もちろん、家族や友達の間
ではウルドゥをしゃべっていたけど、役所や学校など、公式な場所
では子供の頃から英語を使っていたので、アメリカへ留学したから
って、言葉で困ることがあるとは思いもよらなかった。でも、文化
と言語は一体だ。インド育ちのイノセントな僕には、アメリカでの
生活は、住み始めて一年以上たってもわからないことがある。
 インド人仲間の一人が、久しぶりに僕を尋ねて来た時のことだっ
た。
「あ、あの、これ……。どうしてこんなところに置いてるんだ?」
 奴はおそるおそるテレビの上の、ビニールパッケージを覗きこん
でいる。
「ああ、それ? この間、ダウンタウンへ出たとき、試供品でもら
ったんだ。シャンプーは使ったんだけど、あんまり良くなかったよ。
ちっとも泡が立たないんだ。第一、量が少な過ぎだよ。そこにある、
ジェルとクリームは、どう使うのかよくわからないから、そのまま
にしてるんだけど」
 すると、奴は深呼吸をして、僕を静かに見つめ直して言った。
「あの、これは、エッチの効果を高めるために使うんだ」
「お、おまえ、どうしてそんなこと、知ってるんだ!」
 僕の顔は青ざめた。
「僕、今学期、ヘルスサイエンスのクラスを取っているんだけど、
そこで習ったよ。そんなこと、アメリカでは小学生でも知ってるら
しいよ」
 僕は呆然と天井を見上げた。軽く半月はそのパッケージをテレビ
の上に放りっぱなしだったし、その間にたくさんの友達がここへ出
入りしていたのだから。
「なあ、そのシャンプー、頭に使ったのか?」
「ああ。だって、シャンプーって書いてあったから……」
 奴の顔つきは、さらに深刻になった。
「君、他にとんでもないことをしでかしてないかい?」
 僕は頭をフル回転で、サーチ機能を作動させた。何もあって欲し
くない、という切実な思いもむなしく、僕はある女の子の言葉をリ
ストアップしてしまった。
「そういえば、一昨日のことなんだけど、セクシーなブロンドの子
が僕に聞いたんだ。いつも男友達と一緒だけど、あなたはゲイかっ
て」
「で、君、何て答えたんだ」
「Yes……だよ、だって、ゲイって、“陽気な”って意味だろう?
インドの辞書にはそう載ってたよ!」
 僕はいい訳をするように声を高くした。彼女のその時の反応が気
になっていた僕は、奴の次の言葉を聞くのが少し怖かった。奴はう
つむいたまま、小声で言った。
「ゲイって、同性愛者のことなんだ」

第2回1000字小説バトル
Entry29

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鳥人幸吉

作者 : みかりん
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  時代は江戸中期。場所は備前。現在の岡山県である。
 浮田幸吉は、空を見上げている事の多い少年だった。いや、正確
にいうと見ていたのは空ではなく、空を飛ぶ鳩だった。
「なぁ、おかあちゃん。鳩が空を飛べるんのはなんでぇ。」
「なんぼうその質問かぁ。鳩は翼があって、お前には無いってこと
だぁ。いつまでも空ばぁ見てないで、家へ入りゃぁええが。」
「なぁ、わしにも翼があったら。」
「翼を付けて産んでやれなくてすまなんだのう。ほんならそんな事
で思い悩む事はなかったろうが。」
 母親は、自分で言った冗談にひとりで笑った。
 幸吉は、にこりともせず空を見上げ続けていた。その顔に鳩の糞
が落ちた。それでも微動だにしなかった。幸吉はそんな少年だった。

 長じて幸吉は表具師となった。
 表具師とは、紙、布を張って、巻物、屏風、ふすまなどを作る職
人である。
 幸吉は、仕事熱心な腕の良い職人だった。仕事が終わった後、仲
間と酒を飲むこともせず長屋に戻って、ある仕事に没頭していた。
 それは、翼の制作である。いくつかの試作品を経て、いよいよ完
成版が仕上がりつつある。
 翼を背負いながら両の手で紐を使って舵を取る事が出来る。尾羽根も
ある。一人暮らしの狭い部屋は大きな翼が場所を取り、いったいど
うやって寝ているのか。
 そこに野次馬が冷やかしに来る。幸吉の鳥人計画は、町中の評判
であった。
「幸吉。こいつで飛ぶ日は決まったんかぁ。」
「あぁ、来月の始め晴れたら実行するでぇ。」
「そりゃ、おもれぇ。何処ぇでやるんじゃ?」
「ここからすぐの所に橋があろうが、あそこから飛ぶでぇ。」
「よぉし、長屋の連中や、かみさん連中、仕事仲間、弁当持ってぎ
ょうさんで見物に行くでぇ。」
「おおよ。」

 当日、晴天。
 見物人で河原は賑わった。ちょうど桜の季節。花見気分で酒盛り
をする輩もいてちょっとした祭りのようだ。
 翼を装着した幸吉は、橋の欄干の上に立った。 
 空を見る。幼き頃からずっと見続けている空。今日の空は、見上
げるばかりで手の届かなかった空とは違う。下で騒いでる酔っ払い
共の事はすでに頭にない。見えるのは青い空。
 やわらかい風が幸吉の背中を押した。幸吉は飛んだ。鳩になった。
風になった。桜の花びらになった。幸吉は念願の空の人になったの
である。

 天明五年(1785)。ライト兄弟より100年以上も早く空を飛んだ
日本人がいた。しかし幕府に「怪しい奴」と睨まれ、幸吉は後に打
ち首となったという記録が残っている。

バトル結果

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第2回1000字小説1等賞決定!!
作品『ソルティ・ドッグにどうかよろしく』のヒモロギさんに決定です!!
ヒモロギさん、おめでとう──マニエリストQ



作品
ソルティ・ドックにどうかよろしく(ヒモロギ)6
(有)オリムピック製菓(穂室たまお)2
ストーカー(東京りんご)1
隠し専門(海坂他人)1
「ほおのみ」と読んで下さい。(HCE)1
『ロクさん』(おーぎや)1
精液と聖書(Matock)1
きかい(笑夢いとう)1
物語と日常(あさ)1


ソルティ・ドックにどうかよろしく(ヒモロギ)

(有)オリムピック製菓(穂室たまお)

ストーカー(東京りんご)

隠し専門(海坂他人)

「ほおのみ」と読んで下さい。(HCE)

『ロクさん』(おーぎや)

精液と聖書(Matock)

きかい(笑夢いとう)

物語と日常(あさ)







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