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第3回1000字小説バトル
Entry1

社長室

作者 : 影法師
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  音もなくドアが開いた。
「誰かね?ノックもなしに…」
「社長、私の顔、お忘れですか。そうでしょうな、子会社に追いや
られた社員のことなど、いちいち覚えている訳がありませんな」
「そういえば、君は確か元総務部の…。ところで何の用かね、アポ
もなしに突然」
「私、希望退職を迫られていましてね、出向して2、3年で本社へ
戻れるというのは大嘘ですな」
「辞める辞めないは、本人の自由意志だ」
「それが会社のいつもの言い方ですよ」
「君!何を言いにきたのだ」
「この文面を電子メールで全社内に流して欲しい」
「何だ、 この文章は!」
「社員を苛める前にもっとすることが沢山あるでしょうということ
です」
「こんなメールを流せるものか。君ね、我が社は何年も前から能力
主義になっているんだよ、力のないものは後進に道を譲るべきだ」
「能力主義って一体なんですか?誰が決めるのですか?私達の若い
頃、何にもしなくて、ポストも金もたっぷりもらっていたおっさん
がウヨウヨ居たじゃないですか。私達が中年になって、さあ、能力
主義だ、若い者らと一緒に勝負しろと言われても」
「帰ってくれ給え、人を呼ぶぞ」
「三十年勤めて、退職勧告は一通の電子メールでした。あんまり
じゃないですか。悲しすぎますよ。社長、貴方も私と一緒に辞めて
ください」
「馬鹿な、私は会社を守る責任がある」
「じゃ社長、私の三十年を返してください!」
「な、なにをする。刃物なんか出して。危ないじゃないか」
「辞めるのが嫌なら 私と死んでください」
「ひぃー。た、助けて」

  救急車のサイレンが遠ざかっていく。
  窓から赤いランプを見ながら、二人の男が話している。
「筋書き通りだな」
「不満分子を焚き付けて社長室へ乗り込ませるなど、容易い事でし
たよ、専務」
「こんな不祥事を起こしたんじゃ、社長も退陣だな」
「次期社長 おめでとうございます」
「まだ早いさ、でもそうなれば、私は現社長のような血も涙もない
リストラはしない」
「期待しております」

二年後―――
  音もなくドアが開いた。
「誰かね?ノックもなしに」
「社長、私の顔 お忘れですか…」






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