第3回1000字小説バトル
Entry11
「わたしが帰ってくるまでに、出ていってよね!」 捨てぜりふを残して、美代子が部屋を飛び出して行った。同棲し て一年ちょっと・・・夢のようなふたりの生活が急にしぼんでいっ た。それはきっと、美代子に新しい男でもできたからだろう。僕を かまわなくなったからだ。気がつけば、そのことで大喧嘩になって いた。男のことなど妄想だと美代子は涙で訴えていたが、不審な行 動が僕を悩ませていた。 僕は捨てられたのだろうか? 自分の荷物を整理し始めた。ふたりで買ったものは美代子にあげ ようと思う。 アルバムが出てきた。あまり写真は撮っていないけど、型として の思い出に違いない。写真を見ていると、不思議なことを発見した。 美代子の顔が写っている写真がないのだ。 すべての美代子の写真はおどけた顔をしているか、手で顔を隠し ているものだった。まともに写っているものがなかった。そういえ ば、最近まともに美代子の顔を見たことがなかった。どんな顔だっ ただろう? 情けないな・・・いつからだろうか? 自問自答して みる。記憶の奥にそれはあった。 「そろそろ結婚を考えない? 両親も心配しているし、できたらお 父さんに会ってほしいの」 僕はまだ早いと笑ってごまかした。あの時からだった。 逃げていたのは僕だったのか? 美代子への不信感や男の疑惑は、結婚はまだ早いと思っている僕 の妄想から生まれたものだったのか? 美代子はふたりの同棲生活を、否定していたのかもしれない。い つか思い出しても、証拠の写真には写りたくないという心境だった のかもしれない。 始めから? 始めから美代子は真剣な付き合いだったのだ。僕は果たして、真 剣だったのだろうか? いっしょに過ごした部屋を、ボーと眺めていた。 荷物の整理はやめ、美代子の実家に電話を入れた。何と、美代子 の声が響いた。 「わたし、今日は休んだのよ」 待っていたのかもしれない。 「お父さんにお会いしたいんだけど、何時に帰るかな?」 「その前にすることがあるでしょう?」 「何?」 「わたしとの仲直りよ」 僕はスーツを着込んで出かけた。美代子は実家の前で迎えていて くれた。いつもの、みなれた笑顔で・・・
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。