第3回1000字小説バトル
Entry15
「お爺さん、こんにちは。」 カイトは勢いよく山小屋の扉を開けて、息を切らせながも元気一 杯の挨拶をした。 「ああ。」 しかし、爺さんは此方に背を見せたままで、しわがれた声でボソ ボソっと返事をしただけだった。 「今日は出来上がるよね。」 鞄を扉の側に置いて、完成間近のグライダーをまじまじと眺めた。 「そうだな。」 飛び跳ねるようなカイトの声に対して、爺さんの口調は何処まで も鈍い。張り合いの無い爺さんの返事に、カイトは左の頬を膨らま せたが、パッと堪った空気を吐き出し、 「ここまで出来たのもお爺さんのおかげだよ。」 と、真っ先に心に来る気持ちを伝えた。事実、小学生一人ではこ こまで出来なかっただろうし、この計画をまともに聞いてくれたの は爺さんだけだった。爺さんは返事の代わりにやれやれといった感 じで立ち上がり、ゆっくりと此方に近づいてきた。 「これであの崖、飛び超えられるかな?」 翼を擦りながら、一番の疑問を上目遣いで聞いてみたが、 「さあな。」 と、期待どうりの気のない言葉しか返ってこなかった。 次の日、複雑な気持ちで山小屋に向かった。実際の所、あのよう に小さな翼しか持たないモノで、崖の向こう岸まで飛べる自信が無 かった。想像していた完成品はもっとキラキラしたイメージだった のだ。しかし、現物はどう見ても断崖きり立つ厳厳としたイメージ に完敗していた。 「何時までモウロク爺さんの所に通うのかしら?」 昨夜盗み聞いた、母の言葉に心が冷たくなる。 「そんなモノであの崖を飛ぼうなんて、無駄な事だよ。」 友達の台詞が気持ちを惨めにさせた。 そんな思いのまま山小屋に着くと、爺さんはグライダーを担いで 扉の前に立っていた。 「行くぞ。」 何時もの口調で爺さんがカイトを促した。 「うん。」 小さく頷き、口を噤んだまま爺さんの後を歩いた。カイトは二つ の現物を同時に見た時、今までやってきた事が虚しくなるのではな いかという恐怖感に包まれていた。 「着いたぞ。」 そう言って爺さんは腰を下ろした。カイトは走って崖の際まで行 って向こう岸を眺め、ゆっくりと景観を見回した。 「これでは飛べんぞ。」 爺さんが少しすまなさそうにボソッと言った。 「分ってた、でも無駄じゃなかったよ。」 そう言って、両手を広げ吹き上げてくる風をあびた。足元で大き くきりたっている崖は、カイトの眼に以前よりも小さく映ったので ある。
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