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第3回1000字小説バトル
Entry19

特効薬

作者 : 渡会 悠
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 5年前、新型のウイルスが発見された。このウイルスに冒された
人間は、2〜3年の潜伏期を経て、発病。そして1ヶ月で死に至る。
特効薬は見つからず、患者(=死亡者)は恐ろしい勢いで増え続け
た。感染者の増加を示すグラフの右肩上がりの曲線は、その先を辿
れば人類は10年を待たずに滅亡することを示している。状況は絶望
的だった。
 しかし2ヶ月前、このウイルスの正体が明らかになった。それは
山奥にある小さな村の風土病だった。秘境という言葉の相応しい山
奥ゆえに、滅多によそ者は訪れない。7年前に来たという辺境専門
のカメラマンが、一番最近の訪問者だと言う。おそらくそのカメラ
マンがウイルスの媒介となったのだろう。その人物も既に故人とな
っていた。
 なぜこの小さな村が殺人ウイルスによって全滅していないのか。
理由は単純だった。特効薬が存在するのだ。
 村の長老は言う。
 「あんな病気は、はしかに較べりゃかわいいもんだ」
 薬を飲み安静にしているだけで、病気は治り、免疫もできて二度
と感染しない体になるそうだ。人類希望の特効薬は、この村の更な
る山奥にある深い森の中に生えているコケから取れると言う。我々
は早速、森へと向かった。
 森へ通じる道は遠く、足場も悪かった。1日で運び出せるコケは、
薬にして千人分にも満たなかった。ましてこの村から飛行場への道
のりは、どれほど車を飛ばしても3日はかかる。これではコケの採
集がウイルスの汚染に追いつかない。そこで、村から森までの道を
整備し、村近くの山を切り崩しヘリポートを作る許可を長老に求め
た。長老も村人も頑なに自然破壊に反対した。が、人類の存亡に関
わることだと押し切り、強引に工事を進めた。
 結果、大量のコケの搬出に成功し、人類はひとつ危機を乗り越え
ることができた。

 それから半年後、人類を再び新しい伝染病が襲った。伝播力、致
死率ともに前回より強力である。どうやらコケ採集の時に、あの村
から持ち出されたウイルスが原因だったらしい。あの孤立した村に
は知られざるなにかが、まだまだたくさん存在するようだ。我々は
またあの山奥の村を訪れた。
 まずはコケのお礼を言い、そして今回の伝染病の症状を詳細に説
明した。長老はニッコリと笑った。
 「あぁ。そんな病気は、はしかに較べりゃかわいいもんだ」
 そう言って、美味しそうにお茶をこくりと飲んだ。
 「ヘリポートで削ったあの山に、自生していたシダを使えたのな
らな」






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