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第3回1000字小説バトル
Entry20

自分勝手な男

作者 : おじゃましまんにゃわ
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『慎重に距離をとり、必要以上に相手に深入りせず自分自身のこと
も必要以上にさらけ出さず─僕はそんな風に対人関係を築いてきた。
そりゃ、今までの知り合いのなかには(奴は、どことなくよそよそ
しい)だとか(冷たい)なんて言う人もいたよ。だけど、こんな僕
を理解してくれる人もいた。少なかったけれどね。君も、そのうち
の一人だ。わかってくれなくても、いちいち詮索せずただ黙って話
を聞く僕のことを重宝がる人もいた。なぜ人と距離をおくかって?
そう誰も傷つけたくないし誰にも傷つけられたくもない──適度に
距離を保っている限りそれは可能なことなんだ。それでも僕を混乱
させようと土足で踏み込んでくる奴もいた。でもね、それも一時的
なことでグラスの中の水を振れた時のようにしばらく揺れては、ま
た元の状態に戻る。僕が今の仕事を選んだのも、サラリーマンのよ
うに実際の仕事以外のことで必要以上に神経を使い、付き合いで酒
を飲む……自分の内側を無理矢理こじあけてしまう人間関係は我慢
出来ないと考えたからなんだ。今でもその判断は間違ってなかった
と思うよ。不景気なんだかんだいっても仕事は順調だし、僕の心は
平穏だった。昨日までは』 
 
 彼はそこまで一気に話すと同じ様にビールを一気に喉に流し込ん
だ。彼が自分のことをこんなに話すことは、今までの我々のつきあ
いで過去に例がなく私はただ圧倒されて話に頷くのが精一杯だった。

 沈黙の時間がしばし流れ、私はその空気に耐えられなくなり煙草
に火をつけた。 店の中の客は、私と彼の二人だけで、いつもは私
が連れてくる仲間との会話に口をはさむマスターも今日は静かに我
々と入れかわりに帰っていった客のグラスを洗っていた。

 彼は空になったグラスを睨みながらゆっくりと口を開いた。

『昨日、彼女が出て行ってから、なぜダメになったのか冷静に考え
てみたよ。 彼女は最後に(あなたは自分勝手なのよ)って叫んで
僕の前から去った。今まで僕は31年の人生の中で一度だって誰か
に”自分勝手”なんて言われたことがなかった。そのように思われ
ない様にと心掛けてきたつもりさ。慎重に距離をとってね……、で
もね、そんな僕の振る舞い、距離の置き方が、時には相手を傷つけ
ることもあるって……』

 煙草の煙は、ゆっくりとあたりを漂っていた。






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