インディーズバトルマガジン QBOOKS

第3回1000字小説バトル
Entry25

終線’1943

作者 : 工藤ユリカ
Mail :
Website :
文字数 :
「ねえ、あなた、彼奴ら撃ってこないね」
 力無く、でも返事を期待しているのにあなたは何にも答えてくれ
ない。
 吐く息が、白い。
「……ふう」
 あたしは一人でため息をつく。
 と、向こうの方で微かに音がし、何かが動いた!
 それ、を目で確認する前にあたしの指は引き金を引き、
 そして。
 それ、は額から何かほとばしらせ、倒れて、
 ……辺りは又、静寂に包まれた。

 ……冷たくなって、あなたの横で、こうしてただ空を眺めている
のもどうかしら。気がついたら雪がまた降り始めている……
 もう、夏は永遠に来ないのだろうか。冷え切った躰の、感覚はも
う随分と前に失くなってしまった。
 それでも。
 昔の記憶を頼りに思い出そう。あのとき、あたしを優しく包んで
くれた温もりと安心感は躰の奥の奥の心の中にちゃんと在るんだっ
て。
 あたし、ちゃんと、生きている。
 あなたが生きろ、と言ったから。
 ……最後までここに……
 バカなやつと人に笑われてもいい、それがあなたとあたしの絆だ
から。
 ……雪。どうせ降るならもっと降って全てを埋めて……たくさん
の穴の空いた兵器や可哀想な人間達をその下に隠して、……お願い。
 いつのまにか、あたしは、浅い眠りに落ちていった。

 あたしは最初、其奴が近づいて来るのを何かの間違いだと思った。
激しくモーターを回転させ塹壕を踏みつぶして行く。
 あれは恐らくSdkfZ231装甲車、装甲は18ミリ……あの20ミリ砲
にはこの武器じゃ、勝てない。
 だけど。
 前部座席下にある燃料タンクに一発でもぶち込めば勝機はある。
あたしは最後の銃弾に焼夷鉄鋼弾を選んだ。
 其奴が目の前に現れたとき、あたしの銃が鉄の化物に火をふいた。
命中した瞬間あたしは、20ミリ砲の、直撃を食らう。
 ……焼夷鉄鋼弾は点火まで時間がかかるのよね……
 あたしは、もうずうっと前に先に逝ってしまったあなたの亡骸の上
に、この身を静かに被せた。

 レニングラード記念博物館。
 私が、そこで見たあの「絵」は、今もそこに在るのだろうか。
 独ソ戦「バルバロッサ」激戦地として知られるこの町に、静かに、
たたずむ。
 多くの市民が飢えと寒さで死に、900日間にわたる攻防戦の間、彼
らに支給されていたのは、たったパン一切れだったという。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。