第3回1000字小説バトル
Entry27
時々僕のアタマはお喋りになる。
潔く夜を刺す尖った三日月に励まされて、春の薄闇を浮かれて歩
いた。僕の後ろを小さな天使達が、羽虫のように群れをなして飛ん
でいる。官能的な音楽が、耳朶の後ろで唸り続ける。僕は奴等をい
ざなって、夜の果てまで旅をする。オマエの眠るスイートホームを
遠く離れて。
昨夜 ざわめく気持ちに眠れぬまま、僕はひとりで酒を飲んだ。
贅沢な夜だった。窓の外には青い月。心地良い風は、微かに花の
匂いがした。オマエはしどけなくほころんで、静かな寝息を立てて
いた。オマエの隣には、生まれたばかりの僕の息子が子犬のように
丸まっている。僕は、くんくん鼻を寄せてオマエ達の匂いを嗅いだ。
おなかいっぱい幸福で、やりきれない程切なかった。しみじみと壊
れて行く時間の中で、どうしようもなく不安になった。
膨張し続ける永遠の宇宙がブラックホールを育むように、僕らの
崩壊も輝く未来を生むのだろうか。無残に重なる明日に、刹那の幸
福の愛おしさを、一体 どうやって紡げばいいのだろう。
天使を引き連れ、僕はさまよう。
裏通りのショーウインドに、僕はピンクのドレスを見つけた。今
時、珍しいゴージャスなやつだ。こんなドレスを着たオマエを連れ
て、王様のように気取って街を歩きたい。けれども僕は、僕の為に
この素敵なドレスを買う事にする。
このドレスを身に纏い、メアリーポピンズのように空を飛ぼうと
企んだ。オマエはきっと何時ものように 愚かな僕を笑うだろう。
光り瞬く街を見下ろし、僕は橋の上に立つ。
ここから眺める人工の楽園は、生活の猥雑をすっかり隠して本当
に綺麗だ。心をこめて僕は息子に『ハッピーバースデー』と伝えた
い。この街に灯る幾万の灯りを、みんなオマエに捧げよう。この光
の海の片隅で安らかな夢を観ているオマエ達を、僕は本気で愛して
いるよ。けれども散々煩わしい生活の中で、やがて僕はオマエ達を
憎み始める事だろう。
僕はそんな自分がとても恐いよ。震えるほどに苦しいよ。
風に吹かれて僕のドレスはヒラヒラとひるがえる。らんちゅうの
シッポのようにとても優雅に。ゴウゴウと吹く風が人々の叫び声を
かき消して行く。右往左往と蠢く人影に、僕はゆっくり手を振った。
オシャベリ過ぎる僕の脳味噌を、僕は上手に始末しよう。
天使達が歓声をあげる。
そして 全ての僕の記憶は、静寂の中に止まる。
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