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第3回1000字小説バトル
Entry28

素浪人皮剥ぎ血肉ノ介・柳蜘蛛

作者 : 蛮人S
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Website : http://www.geocities.co.jp/Technopolis/3057/
文字数 :
  雨上がりの湿り気の、ねっとり纏いつく夜だった。
 その男は堀に面した柳の大木、ちょうど血肉ノ介の頭の高さで、
逆さ吊りとなってもがいていた。
「ほう……」
 血肉ノ介は物珍しげにこれを眺める。
 男は両手両足を柳の枝に絡め取られ、そのまま引き揚げられた形
である。何か言いたげな風であったが柳は猿ぐつわよろしく口元に
も巻き付いていて、男の言葉を奪っていた。その有様は血肉ノ介に、
折檻を描いた無惨絵を思い出させた。
「ただし色気は無し、か」
 血肉ノ介が口元の枝を外すなり、男は喘ぎ訴え始めるのだった。
「助けて、助けて呉れ、ば、化け物が」
「……どれ」
 血肉ノ介は男の見開いた眼の先を追い、柳を見上げた。
「あれか……」
 そこには一匹の蜘蛛が居た。地味な模様の、珍しくはない蜘蛛で
ある。ただ、馬ほどの大きさと、若い女の顔を持つ点で普通と違っ
ていた。
「あれは……お前の見知った顔か」
「知るか! 知るわけねえだろ! さ、急いで降ろしてくれ!」
「ふむ、そうか」
 と言いつつ、血肉ノ介は男を吊り下げたまま何やら思い巡らせて
いたが、ふと蜘蛛の方を向き声をかけた。
「……女」
 蜘蛛は首をゆっくり左へ傾ける。
「お前、ここ数日ずっとそこに居ったな」
 すると蜘蛛は右へと首を傾けつつ、紅を引いた唇をニイと歪めて
微笑むのであった。血肉ノ介は、すっと男に視線を落とした。
「……なあ、お前」
「何だよ」
 蜘蛛は二人をじっと見下ろしている。
「知っておろうが、何日か前だ、この辺りで…女が身投げしたな」
「そ、それがどうした」
「男に捨てられ、世を儚んだと噂に聞いた」
「関係無え!」
「のう、今一度尋ねるが……まこと、あの女に……」
「知らねえ、知らねえってば!」
 男は蜘蛛を忌まわしげに睨む。
「覚えがないと申すか」
 男は叫んだ。
「早く助けろよ、苦しいんだよ!」
「承知」
 血肉ノ介は、刀をすらりと抜くや男の胸へと突き上げた。

 蜘蛛の物言わぬ口が、不服げに動く。
「まだ責め足りぬか」
 血肉ノ介は、刀を男の袖で拭いながらクックと笑った。
「まあ許せ、これでも一応……生きている、男の側に立つ身ゆえ…
…ついつい救うてしもうたわ」
 刀をぱちりと納め、血肉ノ介は顎をしゃくった。
「そら、引いていけ」
 柳の枝がびんと張る。蜘蛛は細長い腕で、ずる、ずると男を引っ
張りあげ、やがて手元に達すると、愛しげにこれをかき抱くのだっ
た。

 その後血肉ノ介が蜘蛛を見かける事は無かった。






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