第4回1000字小説バトル
Entry10
アフリカの夜は漆黒よりも深い。黒光りする夜の向こうには何か があるに違いない…・・。安雄が言い残したセリフだ。 いつからかずっと部屋に閉じこもり孔雀の絵を描き続けている。 孔雀はメスよりもオスの方が美しい。だから完成したキャンパスに 唾を吐きかけ燃やすつもり。 孔雀の羽根に色を塗る。パレットの上で、赤と黒を混ぜる。途端 に絵筆の先についた黒に赤が侵入し、やがては浸食する。しかし黒 は触媒の赤を飲み込むだけで黒世界に統一されていく。赤が消滅し ていく。忌々しきは黒。 安雄は私を置いてアフリカに消えた。黒人の後を追って行ったの だ。安雄がアフリカに被れ出したり、髪を編んでみたり、黒人音楽 を聴き始めたのも何もかも、あの黒人の影響なのだ。 私は今、HIVに感染している。妊娠も判明した。おそらくお腹 の子供も感染しているはずだ。私はある観念にとりつかれる。 −Go Africa…・・ 孔雀の絵が完成した夜、アフリカのサバンナにいる夢を見た。ゼ ブラが草原を駆け抜ける。ゼブラの集団はまるでフーガの様に一つ の真実という主題に向かって追走し、一体化する。そして、合体し たゼブラは消滅し、後に、黒い汚点だけを残した。 孔雀を燃やした後、安雄の後を追い南アフリカの大地に降り立っ た。殖民地支配が残るこの町では、アパルトヘイトが根強く残って いた。直後、私は黒人の鋭い視線を浴びた。カラードについては関 心がないと目で返した。すぐに邦人の旅行者が安雄の居場所を教え てくれた。 夜になるのを待って、礼拝堂に向った。アフリカの夜空は真の闇 というのは本当だった。 「ヨクイラシテクレタネ」 神父が待ち侘びたように言った。賛美歌の中、安雄が姿を現した。 私を一瞥すると、神父と抱擁を交わした。 安雄は私に言った。 「差別と戦っていくんだ」 (ゼブラの一体化…・・。) 「できたの…・。赤ちゃん…・・」 私は言葉を待った。そして安雄は言った。 「ヘテロがホモを愛せば不幸になる」 「それでも私は構わない」 「じゃあ、一緒に死んでくれ」 「私は…・・生きる。でもあなたには…・・道はひらかれない」 私は礼拝堂を後にした。ふと、返り見た礼拝堂は恐ろしいほど、 真っ赤に燃えていた。炎に包まれた礼拝堂はまもなく跡形もなくな るだろう。 −私は焼け跡から出てきたロザリオを見つめている。神父のものだ。 通りすがりの黒人が私をみてマリアと言った。見つめ返す先にあ る瞳は黒く澱んでいる。
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