第4回1000字小説バトル
Entry15
私は職員室のドアを開け、自分の席についた。最近伸ばし始め、 やっと筆のようになった顎ひげを指でつまみ、インスタントコーヒ ーをいれた。またドアが開き、同じく国語教師である田中さんが私 の隣に座った。彼は私が生まれた時からこの小学校で働くベテラン 教師だ。 私と彼は一息つくと、早速今日の国語のテストを採点し始めた。 まず最初は漢字問題、二人とも機械的にマル、バツをつけていく。 次は文章題となり二人のペンを持つ手が止まる。 文章題の出典は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」問題は「どうしてカン ダタのつかまった糸は切れちゃったのでしょうか?」 田中さんの顔がやや曇る、逆に私は少しうきうきしながら解答を 見ていく。 “一番下ですっごいデブが糸につかまったから” “カンダタのひげが糸にこすれてて、それで切れた” “天使さんがあらわれてね、「悪人は天国にいれないぞ」って糸を 切っちゃったの” ガハハと笑い、私は全ての解答にマルをつけた。田中さんは違う だろうとか言いながらもやはり全てにマルをつけた。 「田中さんまだ慣れないんですか?」 「ああ、これが正解だとは思いたくないねぇ」 「そんな事はないです。文章に対する感想は個人の自由じゃないで すか。これこそ個性を伸ばす教育ですよ」 「そうかねぇ」 3年前から国語の文章題では全てにマルをつけなくてはいけなく なっていた。“個性を伸ばす教育”は20世紀後半からさけばれてお り21世紀になってもこのスローガンは変わることがなかった。むし ろ近年は加速していた。結果、国語に関しては今のような制度にな ったのだ。中年より上の世代はこの制度に抵抗があるみたいだ。ま あ仕方ないかもしれない。 問1.田中さんはどうして違うだろうと言ったのですか50字以内 で答えなさい。 隆は問1をさっと読んだ。最初に文章題を持ってくるのはQ大学の 毎年の傾向だな、と文章に全く目を通さずに解答を書いた。 “わかりません。” 隆だけでなく他の受験生も文章題の文章を読むことはない。教壇 では顎ひげの立派な初老の試験官が悲しそうにその光景を見つめて いた。
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