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第4回1000字小説バトル
Entry18

海の色、空の色

作者 : おーぎや
Mail :
Website : http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Gaien/2883
文字数 :
「へっへっへ」へらへらしながらミツルが近づいてきた。
「なんだよ。ミツル」右の眉だけぴくりと動かして、コウはミツル
を見上げる。
「どうよ。電車の彼女とやらは」両手をズボンのポケットに突っ込
んだまま、ミツルはコウに顔を近づけた。
「どうもこうもねえだろ。名前も知らねえんだよ」
「でも、気になんだろ」
「そりゃあな。毎朝見られてんだぞ。じっと。じっと」
「あああ、わかった。わかった」両手をポケットから出して、ミツ
ルはもういいよの仕種をする。「今度そいつ見に行くよ。なんかお
もしれえよなあ。わくわくすんなあ」
「おまえがわくわくしてどうすんだよ。カノジョ、泣くぞ」

 ミツルの腕の中にいるだけでユウは安心する。
 終わった後にベッドで寝息をたてるミツルに苛立ちを覚えること
もあったけど、いまではかわいいもんだと思える。
 ときどき揺れるミツルの睫毛を見るうちに、ミツルの呼吸に包み
込まれるようにして、ミツルが今いる世界へといざなわれる。
 ユウはゆっくりとミツルに沈んでいく。溺れているのではない。
深いところに向かって沈んでいく。潜っていくのとも違う。落ちて
いくのでもない。ただ、沈んでいく。
 苦しくない。苦しくないよ。
 ミツルに溶けこんだたくさんの酸素がユウをやさしく満たしてく
れる。ユウはミツルの中で静かに呼吸する。もうミツルの外にはで
られない。見上げた空がどんなに広くても。太陽がどんなに眩しく
ても。

 毎朝同じ電車の同じ車両の同じ場所に、彼はいる。ユウはじっと
見つめる。
 広い肩、背中。眩しいくらいにかっこいい顔。
 彼はミツルと同じ制服を着ている。もしかしたら、ミツルのこと
を知ってるかもしれない。小さな罪悪感にくすぐられる。
 手すりにからまる彼の指を見る。逞しい腕を見る。誰にもみつか
らないようにそっと想像する。
 ユウにとっては、朝の、朝だけの楽しみ。

 見つめられる気配を感じて、ユウは目を覚ました。ミツルの顔が
間近にある。
 ミツルは突然何か思い出したのか、ユウの枕にしていた左腕をひ
っこぬき、両腕をつっかえ棒にしてユウに覆い被さった。
「なんだよ。ミツル」右の眉だけぴくりと動かして、ユウはミツル
を見上げる。
「へへ、コウって奴がさ」独り占めした愉快がミツルの頬からこぼ
れてくる。
「?」
「ま、今度わかったときに話してやるよ」ミツルはユウにゆっくり
と顔を近づける。
 ユウはそっと目を閉じて、ミツルの背中に腕をまわす。






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