第4回1000字小説バトル
Entry19
晴代が映画番組を見ていると、夫が帰ってきた。濃厚なラブシー ンに刺激されて悪戯半分にパジャマのズボンの中に手をやろうとし ていたところだったので、大変慌てた。 「ごはんは?」 「済ませてきた」 唇を尖らせてラップのかかった皿を冷蔵庫にしまう。 酒臭い。飲んできたのか、と晴代は少し腹立たしくなる。そうい う時は電話して、と何度頼んでもだめなのだ。先に食って寝てろよ というだけで、まだなら一緒に食事をという心遣いをわかってくれ ない。 夫はすぐに着替えてふとんに入る。晴代も電気を消すと夫の横の ふとんに入った。晴代は落ち着かない。 「ねえ」 自分の寝床を抜け出してこちらへすり寄ってくる晴代を、広志は 薄目を開けて見る。ああ参ったなあ、と思いながらも妻に腕まくら をしてやる。 「何」 「もうずっとしてないよ」 「そう?」 「そうだよ。ねえねえ」 「勘弁してよ。眠いんだから」 晴代は失望する。たまにはかまってくれてもいいのになと思う。 いやみを言いたい。 「飲んでばっかり。誰と?」 広志は一瞬言葉につまる。 「さっき言っただろう、関根さんだよ」 確かにそう言ったはずだと自分に確認する。 「そうだっけ」 「そうだよ」 広志は晴代の頬を指で探り、唇をつける。 「また今度な。今ちょっといろいろあるんだよ」 言って広志は突然小さく笑う。 「お前知ってる?」 「何?」 「お前さあ、およよって言うのな、よがるとき」 「嘘」 「本当だよ」 最後の「よ」に続いて響く高らかな笑い声。いかにもその様子を 思い浮かべているというように、閉じた瞼をぴくぴくさせて笑って いる。晴代は唇を尖らせる。 「だからだめなの?」 「そうじゃないよ、かわいいよ」 広志は妻の丸い唇に口づける。 ゴロゴロと転がりながら晴代は自分のふとんに戻る。広志の胸に 後ろめたい気持ちが少し顔を出す。ごめんな。薄闇の中こちらに背 を向けて寝ている晴代の肩を眺めて詫びる。お前に不満はないんだ よ。でもさ、やっぱり女はさ。ホテルの一室で、もどかしい思いで ブラウスのボタンをはずした時の興奮を思い出す。パジャマじゃさ あ、雰囲気でないもんなあ。 晴代は落ち着かない。さっきの映画がいけないのだ。あんな、む さぼりあうようなキスなんかして、首筋に唇を這わせて。あんなの もう、ずっとしてない。いいなあ。したいよう。 夫はまだ寝息を立てていない。寝ちゃったら自分でしようかな、 と思いながら、およよ妻の夜は更けてゆく。
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