第4回1000字小説バトル
Entry2
”ママ、僕また幼稚園でいじめられたんだ。” ケイは大きな黒い瞳を潤ませながら私を見上げた。 ”デービッドが、僕はね、おしゃべりがへんなんだって。だけど 僕、ポケットモンスターだって一番新しいやつ知ってるんだ、だか ら大丈夫。” Fubuのトレーナーの袖からのぞく小さな褐色の手で鼻をすすっ た。 ”そうだよねーケイちゃんは一番偉いんだよー 。” 彼を左手で抱え上げて台所へ立つ。カリカリと油の中に浮いている フライドチキンを右手で皿に移す、オーブンからはアップルパイの 甘ったるい匂いが充満する。電話のベルがなる。 ”パパから電話だー。” 私の手からすべり降りると受話器を握った。 ”ママに変わってってー。” 水のついた手をタオルで拭きながら受話器を取る。 ”かおるさんですか?” ”はい、そうですが。” ”御主人の会社の者なのですが、先ほど警察から連絡がありまし て、訪問先から戻る途中に事故にあわれまして、救急病院へ行く途 中です。場所は...” 受話器から聞こえる音が慌ただしい地下鉄のホームにいる自分にな ったようで、何も聞き取る事ができない。 ”え?” ”マウントサイナイ病院です。” ケイを連れて息をきって病院へ着いてみると、夫の会社の人と医 師が暗い面持ちで私を迎えた。 ”残念ですが。” ”ママ、学君が僕の髪の毛がまっすぐじゃないって、おかしいっ て言うんだ。だけど僕、今日のABCは一番上手に言えたよ。だから 大丈夫。” ”そうだよねーケイちゃんは一番偉いんだよー 。” 少し前より重くなった彼を左手に抱えて右手でサバの煮込みのふた を閉じた。網で焼かれた茄子の香りはやさしく二人を包んだ。
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