第4回1000字小説バトル
Entry22
いつかはこんな日が来ると思っていた。私の愛する一人娘のエリ カを奪いに、男が我が家を訪れたのだ。よりによって、五月晴れの 爽やかな日曜日に。全国に星の数ほどの支店を持つ、「いいおんな 美容整形クリニック」の創始者である、私の億万長者御殿へ。 「お父さん、エリカさんと結婚させてください!」 土下座して、男は私に懇願する。私を見上げるこの必死な顔を、 何と表現したらよいものか。まるで豆腐の角にぶつかったイノシシ そのものだ。醜いにも程がある。すぐに手術してやりたいくらいだ。 ホー、ホケキョ。庭でウグイスが鳴いた。ウグイスもそう思ったの だろう。 「ねえダディ、いいでしょ? 彼、今は売れない詩人だけど、その うちきっと何とかなるわ」 売れない、詩人? 愛する娘の意外な言葉に、私は思わずお茶を吹き出しそうになっ た。将来性のかけらもない、お先真っ暗な男なのだ。折り紙付きの 貧乏まっしぐら。転落人生間違い無し。不幸になるべくして生まれ てきた、哀れなやつだ。きっとこれから失敗と挫折が、雪だるま式 に増えてゆくのだろう。美容整形で財を成し、金で買える物は全て 買い尽くした私とは、正反対の男だ。 それに、エリカもエリカだ。よりによって、こんな甲斐性無しに 惚れるなんて。何不自由ない暮らしをさせてやったのに……ん? あるいは、その反動ってやつかな?金に困ったことが一度もないか ら、貧乏な男がかえって眩しく見えるのかも……おまけにこんなに 醜くて……いや、待てよ?エリカは不細工な男が好きなだけかもし れないな。貧乏好きな女など、この世にいるもんか。それなら…… ふむ、いいじゃないか。 「よし、望みどおり、エリカをキミにくれてやろう。ただし条件が ある。その顔だ。私の病院で手術を受けなさい。鼻をほんのちょっ とだけ高くしよう。少しは見栄えのする顔に変えてやる」 「キャー、ダディありがとう!」 「結婚を許してくれるなら、ぼく、何だってやります!」 二人はおおはしゃぎ。手に手を取って喜んでいる。私は静かに微 笑む。そうさ、男子たるもの、自分の顔に責任を持たなくては。私 の開発した整形技術をもってすれば、他愛もないことだ。醜い男を 美しくすることも。美しい男を醜く変えることも。そして、私がこ の男になりすますことも……娘は絶対に渡すものか。 ホー、ホケキョ。庭でウグイスが鳴いた。ウグイスもそう思った のだろう。
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