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第4回1000字小説バトル
Entry24

温存療法

作者 : 小沢 純
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 ユードラの着信音で、意識が戻った。うとうとしていたようだ。
メイルを確認する。編集者からだ。5メガバイトの添付書類が付い
ている。解凍を始めて、煙草を手にとりキッチンへ立つ。換気扇を
点け、灰皿を手に取り火をつけた。作業手順を確認しながら、煙を
深く吸い込む。時計が鳴った。2時だった。火をもみ消し、換気扇
を切る。Macintoshの前に戻り、解凍したファイルを確認する。3
つに分れたテキストファイルと、画像が10程ある。先に送られて
きたレイアウト指示のファックスと照らし合わせ確認する。今度の
担当は、どうも抜けている。案の定、図5に相当するものが、見つ
からない。まだ社にいるかもしれないが携帯へ電話する。留守電が
起動した。まあ、いい。図が不足な旨、吹き込む。外は、雨らしい。
微かな雨音が聞こえる。明るくなるまで、3時間はあるだろう。さ
て、お仕事だ。テキストファイルを開いてクオークに流し込む。

 昨日は、おかしな日だった。ネットで知り合った男と初めて会っ
た。1対1で会うようなことは、普通しないのだが、そいつにはな
ぜか会ってみる気がした。病院の予約があったので、こちらに近い
場所を指定した。そいつは、指定の茶店で麻のきなりのジャケット
を着てコーヒーを前に座っていた。話ながら気付く。自分で誘って
おいて、なぜか早く切り上げたくなる自分。Macintoshの調子が悪
いこととか、どうでも良いことを早口に言い切り口調で話している。
この気分は、伝わっているようなのに、そいつは、なぜか、落ちつ
いている。まるで私の落ち着くのを待っているようなそぶりだ。そ
いつが後日言った。「私は、とても緊張していたけれど あなたは、
もっと緊張していた」
 その日、病院で検査結果を聞かされた。医者は言った。「初期の
癌です。温存療法で手術しましょう」それが、わたしの落ち着きを
奪っている。そう思うことにした。そいつに手術することを伝えた。
そいつは、真面目な表情で思いも依らぬことを言った。「切る前に、
あなたの乳房を見たい」初対面のその場でだ。私は、事務的に答え
た。「お見せする訳には、いきませんが、母に頼んで写真を撮って
おくつもりです」そいつは、答えず、優しい視線で私を見つめた。
 
 ユードラの着信音、ファイルの不足分到着。ネットにはISDN
で接続したままだ。木曜に入院する。それまでに、この雑誌の仕事
を吐き出してしまわなければ。






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