インディーズバトルマガジン QBOOKS

第4回1000字小説バトル
Entry25

水の音が聴きたい

作者 : 竿山緑
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 興樹と新しく暮らし始めてから、もう一週間になる。昔から変わ
った人だと思っていたけど、興樹は突然部屋に転がり込んだわたし
をたいしていぶかしみもせず、ちゃんと世話を焼いてくれた。訪ね
てきた管理人さんにも、「妹です」とさらりといった。
 よく晴れた、乾いた夏の日、興樹の学校がお休みだったので、二
人で出かけた。
 興樹と一緒に、街を歩くなんてことは、初めてだった。地元の街
をぐるりと回っただけだったけれど、日が暮れるまで、歩き詰にな
った。この人ってば黙々と、自分の行きたいところだけいくんだか
ら。
 わたしは深く息をついてから、ぼそりといった。
「……ず」
「は?」
「水――っ疲れた!」
「サカナかお前は」
 笑いながら興樹がいう。
(あれ、わかるんだ?)
 そう思って見上げた。顔が笑ってしまった。
 なんとなくそのまま歩いて、川を見に行った。マンションの横を
通り抜けて、石段を上がって、土手に出た。大きな川幅で、緩やか
に蛇行している川。対岸が遠くてもうよく見えない。薄闇の中、水
の匂いがしていた。ぱあ、と、ひかりながら、音をたてて電車が通
る。わたしはなんだか元気になった。
「つい最近まで金魚飼っててさ」
 振り返ったらわたしの、肩までの髪が耳を打った。はさみを入れ
るような、澄んだ音で。
「……うん。それで?」
 ゆっくりと歩きながら、ぼうっとした感じで、興樹は続ける。
「地方に住んでた時に買ったのを、こっちに持ってきてたんだけど
病気になってさ。ひれの長い、真っ白いやつだったんだけど。
水が悪かったのかなぁ。うろこが反り返って、だんだん底の方に沈
むようになって、それから浮かんだ。それで、ここに流したんだ。
……こんなところで死にたく、なかったろうなあ……」
 空が紫色で、あたりはどんどん暗くなる。川の水面は、点り始め
た常夜灯に黒く光った。
「……川の底に、神様がいてね。真っ暗なところなんだけど、時々、
とてもきれいな色が見えるの。それがどんどん漂ってきて、願い事
はって訊いてくれるの。だからきっと……。そんなに悪いことじゃ
なかったよ」
「なにそれ、童話?」
「うん」
 水の音で、気配で、元気になる。たとえその水が、生臭い匂いで
も。水はわたしの一部、身体に帰る。そうして循環する限り、私は
生きていかれる。
 興樹の側で。






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