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第4回1000字小説バトル
Entry30

スクランブル

作者 : 君島恒星
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 「あら? あの子!」
 信号待ちで停車していた車の中で、妻は熱い視線を送った。
「本当だ。似ている」
「わたしを見たわよ。目のあたりがそっくり」
「僕を見た。笑ったよな。今笑ったよな!」
「わたしたちに何か言おうとしているのかしら?」
 その少女は7年前に交通事故で亡くなった娘の麻衣子に似ていた。
事故にあったのが7歳の時だから、生きていれば14歳になってい
る。スクランブル交差点を歩く少女は、ちょうどその年頃だったの
で、深く切ない記憶を刺激した。そして僕たちに微笑みかけた。少
女は指の爪を噛んだ。麻衣子がよく、困ったときにやっていた癖の
ように……

 スクランブル交差点が、ものすごく長い道程に感じた。
 車に乗ったお母さんとお父さんがいる。自然に歩こうと努力しな
がら前に進むと、ふたりの視線がわたしを射る。やっぱりわかるの
かしら? 娘だって……
 わたしはお母さんに微笑みかけた。驚くお母さん。お父さんもび
っくりしている。きっと半信半疑よね。
 これでは? 爪を噛んでみる。
 いつもやめなさいと言われていた爪を噛む癖。涙が出てしまいそ
う。気がつけば交差点を渡り終わっていた。
「最後の望みが、両親の前を歩きたいとはね!」
 背中に羽根が生えているエンジェルが、わたしの前に現われた。
「これで、あなたもりっぱに進化できる」
 わたしの背中に、真っ白な羽根が生え始めた。身体が軽くなって
くる。
「さようなら……お父さんお母さん」

 信号が青に変わった。今日は麻衣子の七回忌だった。
「麻衣子のこと、忘れられないわ」
「忘れる必要はないんだよ。今でも麻衣子は僕たちの中に生きてい
る」
「それは想い出よ。麻衣子は天使になって次の人生を迎えているの
よ。きっと」
「そうだな。僕たちの手は離れているんだよな」
「でも、あの爪を噛む癖だけは直してあげたかったわ」
 妻は視線を空に向けた。
 車は麻衣子の眠っている寺へ向かっていた。






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