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第4回1000字小説バトル
Entry40

雲雀の鳴く河

作者 : 鹿野まどか
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 雲雀が滞空してピーチュクピーチュクヒチーチーピュルピュルと
早口に囀る。
 乾燥した葦の河原に舞い降り、再びきゅっと上昇する雲雀の姿を
見た芳郎は、一目散に土手を滑り降りて、肩から掛けた鞄を放り投
げた。
「よっちゃん、学校に行かんのん?」
 心細そうな声を上げる耕治に「お前は行けや」と肩越しに怒鳴る
と、芳郎は用心しながら葦の繁みに身を隠した。しばらく芳郎を呼
んでいた耕治も諦めたようで、急に静かになった河原の中で、芳郎
は風で擦れる葦の音と自分の息の音をばかりを聞いていた。太陽の
日差しさえ聞こえてきそうな快晴だった。
 ピーチュクピーチュクヒチーチーピュルピュル。
 複雑な音階をたどる雲雀の囀りが、葦の影から芳郎の耳に入って
きた。耳を澄ます。微かな音とともに、雲雀が青空に飛び立った。
 芳郎は葦の中を駆け進んだ。鋭く伸びる細い葉が、頬や腕に当た
って行く手を阻む。
 目的の場所に近づくと、芳郎は根元を両手で慎重に押し分けた。
頬が緩む。巣は、物語の空中都市のように、ひっそりとそこに隠れ
ていた。
 しかし、巣を除き込んだ芳郎の頬はみるみる固くなり、口をきつ
く結んだ為か、顎がぴくりとひくついた。芳郎は巣を乱暴にむしり
取ると、「こんなもの」と低く唸って、力一杯河に投げ込んだ。
 巣はふわっと空気を含んで放物線を描き、別れを惜しむようにぱ
っと羽毛を散らすと、べしゃっと耳障りなを響かせて河に落ちた。
 巣は空っぽだった。
 芳郎は頬を紅潮させて、やわらかな草の上にどさっと体を横たえ
た。雲雀の雛がどうしても欲しかった。けれど、雲雀の声はたった
一つしか聞こえない。
 腕の外側がちりちり痛むのに気づいて手を持ち上げると、葦の葉
で切ったのだろう、赤い筋が一筋走っていた。体を起こし、傷を口
に含んだ芳郎は、光る波間に目を凝らした。
 水に浮かんぶ巣の上に、幾度も雲雀が舞い下りる。
 突然、芳郎は弾かれたように服と靴を脱ぎ捨てた。風に泣く葦を
かき分け水辺に出ると、全てを放り出すかように体を水に躍らせた。

 夏至も過ぎた夕暮れ時に、桃色に染まった芳郎の体がゆらゆら浮
かんでいた河原には、今は赤とんぼが飛び交い、白無垢姿の笙子の
嫁入り行列が静々と進んで行く。
「結婚するん?」
 息を切らして駆け込んで来た隣家の次男坊に、笙子は「雲雀の子
ォをくれたら、結婚よすわ」と、目だけで笑った。
 何処かで雲雀が鳴いている。笙子は確かに耳にした。






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