インディーズバトルマガジン QBOOKS

第4回1000字小説バトル
Entry41

タヌキの気持ち

作者 : 川島 圭
Mail :
Website : http://www03.u-page.so-net.ne.jp/yb3/k-k/
文字数 :
 僕はさっきロボットになった。つい30分ほど前。そして僕がロ
ボットになった瞬間、僕とタヌキの関係はちょっぴり疎遠になった。
タヌキとやかんの間柄も、いささか微妙なものになった。
「おい、こっち向けよ」
 タヌキは僕にちらりと冷たい視線を投げかけると、そっぽを向い
て、やれやれとでも言うように首を振った。
 僕はロボットになるということを甘く見すぎていたようだ。ロボ
ットになったために起こる不具合や周囲の反応をあまり深く考えず、
あっさりとロボットになってしまった。
 ちょっと前まで、僕とタヌキの関係はすこぶる良好だった。僕が
おいでおいでをすると、タヌキはとことこやってきて、顔をひょい
と上に向け、茶色い首を僕のほうに向けた。僕がその首を優しくな
でてやると、タヌキはまるでネコみたいに気持ちよさそうに目を細
めニャーと鳴いた。
 しかし僕はロボットになってしまった。哀れ、タヌキは僕を避け
ている。
 タヌキはやかんにさえ近づこうとしなかった。険しい目でやかん
を見つめ、鼻息を荒げ威嚇している。
 さっきまでは、タヌキとやかんも極めて固い信頼で結ばれていた
のだ。タヌキはやかんを放り投げては追いかけて、やかんの取っ手
を首にかけて走り回った。やかんはタヌキのそうした扱いにも文句
ひとつ言わず、やかんならではの心の広さで、タヌキを包みこんで
いた。
 しかし今、タヌキはやかんを避けている。どうやら今の僕とやか
んとは似ているらしいのだ。材質とか、そういったものが。しかし
僕とやかんは違う。僕は自らロボットになった。そのことについて、
やかんは僕に対して何ひとつ指図も示唆もしていない。やかんは完
全に無罪なのだ。これではやかんがあまりに可哀想ではないか。タ
ヌキよ、やかんは僕とは違う。
「なぁタヌキ。僕を避けるのは分かるよ。勝手にこんな姿になって
しまったんだからね。けどやかんは何も悪くないんだ。仲直りして
やってくれないか」
 タヌキが今の僕の頼みを聞き入れるわけもなかった。タヌキはテ
レビのワイドショーに見入っている。
 ワイドショーは百円ショップの特集をしていた。おびただしい数
の商品が店内には並んでいる。レポーターが、ひとつのやかんを手
に取った。そのやかんは、うちのやかんよりはるかに形が良く、材
質も良さそうなものだった。そのやかんを見るなり、タヌキはテレ
ビを消した。そしてごまかすように、軽くあくびをした。
 そんなタヌキの思いやりに、僕はちょっぴりほっとした。






インディーズバトルマガジン QBOOKS
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。