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第5回1000字小説バトル
Entry18

叔父の菊

作者 : 三月
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 皮膚を日差しがこすりつける。背中を汗が滴った。玄関を出て右
に折れると、裏の畑へとつながった。納屋とビニールハウスの合間
に細い道が続く。オニヤンマの通り道だ。黒い影が流線形を描いて
背後へ回った。

 田舎の朝は早い。けれども太陽はすっかり顔を見せていた。試し
に僕も叔父と同じ時間に起きた。長時間泳いだ後のように体が重か
った。戸外の湿った風で、そこだけ秋になったようだった。
 叔父は表の川に出る。縄のついたバケツを放る。じょうろに水を
入れる。菊に水をやる。それから大八車にのせた貯水槽に水を入れ
た。ひしゃくが水槽の口にプカプカ浮いた。一つ気を入れて裏の庭
へと引っ張っていく。ひしゃくはそれに合わせて左右にゆれる。
 叔父が家の中にいることはまれだった。大抵畑か庭にいて、時折
自転車で農協へ行った。ペダルを踏み込むとギィと鳴る自転車だっ
た。ギィギィ鳴きながら自転車は走った。姿が見えなくなっても音
だけは耳に残った。蝉が騒いでいた。
 菊を、教えてくれた。叔父は、菊のことを話していると楽しそう
だった。叔父の菊はいくつもの賞をとった。賞状と一緒に額に写真
があった。綺麗だと思った。けれども僕は本物を見たことはなかっ
た。
 ――お前が帰るころでもな、叔父が言った。――まだ菊は咲かね
えんだが。叔父は残念そうに笑った。周りに頓着しない、子供のよ
うなこの叔父の笑い方が好きだった。
 支柱のさし方に土の手入れ、種の選別に肥料の作り方を、叔父は
語った。納屋の一つは菊専用になっていた。そこには何から何まで
そろっていた。興味も手伝って僕の飲み込みも早かった。しまいに
叔父は、お前一人でもう菊が作れらあなと言った。
 ――菊が咲きそうになったらお前の家まで運んでやる。しかし僕
は叔父が何ら免許証の類を持っていないことを知っていた。――な
に電車があるさ。叔父は小指をさしだした。なんだか照れくさかっ
たが、指切りをした。悪い気持ちはしなかった。

 しかし菊は届かなかった。台風が叔父の家にぶつかったのだ。
――幸い怪我はなかったけどなぁ、と婆ちゃんが電話を寄こした。
――けど、なに?  僕は聞いた。――裏の畑も庭も納屋も、滅茶苦
茶になっちまってさ。婆ちゃんは息をついた。台風が過ぎてからも、
叔父は、一日中納屋の前でぼんやりしているという。
 僕は窓の外を見た。台風の名残か、雨が降っている。窓に浮かん
だしずくが、結んでは流れ、結んでは消えていた。






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