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第5回1000字小説バトル
Entry19

東京ゾンビ

作者 : ヒョン
Mail :
Website : http://www.cc.utsunomiya-u.ac.jp/~k950141
文字数 :
 朝出社すると、山本くんが
「おはよう」
 と声をかけ
「おはよう」
 とわたしがあいさつを返す。
 元気を装っている山本くんではあるが、連日の睡眠不足のせいで、
たしかにその声はいくらか音程が低くなっているのだし、ワイシャ
ツはくしゃくしゃ、あんなに格好良かった細い髪の毛でさえも、も
うすっかりやる気がない。
 人のことは言えない。わたしも昨晩床についた頃には、時計はと
うに夜中の四時をまわっていて、空はすでに明るかった。であるか
らして今日の服の着こなしには、それほど自信がもてないでいる、
そんなわたしである。
 最近の東京の人々は、みな休む間もなく仕事をしているのが一つ
の事実のようで、ひとたび一日の役目を終えると、彼らは心から安
らぐことのできる愛しの我が家へと直行し、そして眠る。
 彼らのことを東京ゾンビと命名したのは、実は山本くんなのであ
って、彼に言わせれば命名の理由は、彼らがぐったりとなって夜に
死に、朝になるとまた何事もなかったかのように、ひょこんと生き
返ってしまうから、なのだそうだ。なんのことだか意味不明だが、
要約してみると、結局忙しいということなのだろう、と思う。
「コーヒーいれたけど、飲む?」
 と山本くんは一応たずねてはくるのだけど、その一方で彼の手に
は、すでにしっかりと二人分の紙コップがにぎられているのであっ
て、さりげないヤツだ。作戦なのかどうかはよく知らないが、どう
もここら辺が彼のにくみきれない部分ではある。
 机をはさみ、顔を向かわせあって、わたしたちは出来たてのイン
スタント・コーヒーを飲む。幸せである。なにせ、課長が来るまで
は、ここはわたしたちの天下なのだ。そして、少なくともあと十分
は、課長は来ない。まあどのみち、一度課長が出社してくれば、そ
の後には、蜂の巣を手にもち振り回しているような、そんな慌ただ
しい一日が、わたしたちを待ち受けているのだが。
「今日、仕事早く終わるかなあ」
 わかっているくせに、わたしがきく。
「終わんないでしょう」
 のんびりした口調で山本くんがこたえる。
「きのう、阪神勝った?」
 どうでもいいことを、わたしがきく。
「負けたんじゃないかなあ」
 どうでもいいのに山本くんがこたえる。
「疲れたねえ」
 わたしが言う。
「疲れたなあ」
 山本くんも言う。
 そしていっしょに笑いだす。
 なんだかんだ言ってみても、けっこうそれなりに毎日を楽しんで
しまっている、わたしたちなのだ。






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