第5回1000字小説バトル
Entry2
今以上に現実を知らなかった子供の頃、俺の足を噛んだ蛇が踊っ ているような字で”FUCKFUCKFUCK”と殴り書きしてあ る黄色い鉄の扉。ペンキが所々剥げているその重い扉をゆっくりと 開け、足下に神経を集中させて角度が急な暗い階段を十三段下りる。 下に到着した俺の全身を包み込む煙草の煙。安酒とマリファナが混 じり合ったその匂いはピアスを掠めて鼻の穴を通り、そして一瞬に して全身に倦怠感を与える。扉の向こうで抑えるのに苦労した破壊 衝動を一瞬にして眠らせるその匂いに慣れていないオヤジとガキは 一匹もいないこの場所で、俺は今日も夜を明かす。 血の色をしたカクテル。赤い液体が注がれたグラスの柄の部分を 人差し指と中指で、女の体をもてあそぶように柔らかく弄くり乱暴 に口に運ぶ。奥のトイレで嬌声を上げるアリス。目の前で幻覚と戯 れるジグリー。割ったグラスの破片で自分の腕に文字を刻むケン。 それを眺めて笑う俺。わざと大きな音を立てバタフライナイフの刃 を出し入れする俺。ささくれ立ち始めた神経を鎮める、聖なるブル ースが狭い部屋の澱んだ空気と同化する。体を売って体を壊した骸 骨のような女が俺の股間に手を伸ばす。俺はその女の髪を引っ張り ペニスをしゃぶらせ、痺れが快感となり白い欲望を放出する。その 代償に渡した二枚のくしゃくしゃ10ドル紙幣。 カウンターに掛けられた髑髏のタペストリー。煙草の焦げ跡と、 零れた酒のシミだらけになった死神。コカインを銀紙の上に載せて 下から火で炙る。餌に群がるハイエナのように集まってくる仲間。 全身の感覚が鋭さを増し力が溢れた瞬間に鳴り始めたジミ・ヘンド リックス。現実から逃亡する自分を笑い、叫び、そして泣く俺達。 床に落ちたジッポ。炎が木の床をゆっくりと赤く染めていく。白 い粉で火照った体を炎が優しく包み込む。 熱さが快感から苦痛へと変わる瞬間、骸骨女と髑髏の死神が俺に 向かって微笑んだ。そしてその笑顔が一瞬にして、チープな現実の 海に溺れた俺の人生を価値ある芸術のように抽象化してくれた。 そんな気がした。
![]()
◆QBOOKSに掲載の記事・写真・作品・画像等の無断転載を禁止します。
◆投稿された各作品・画像等の著作権は、それぞれの作者に帰属します。出版権はQBOOKSのQ書房が優先するものとします。
◆リンク類は編集上予告なくはずす場合がありますのでご了承ください。