第5回1000字小説バトル
Entry21
アタシはなんとなく、ただなんとなく空を見上げていたんだ。
「おまえってアレだな、いつも空に何かを求めてるみたいだぞ。」
そう言ってきたのは学校をサボリがちな、名前さえも覚えてない
クラスメート。笑顔を絶やさない陽気な人って事は覚えていたけど。
「今日は学校来たんだ?」
そう答えたアタシ彼はフフンと鼻で笑った。
「病院の食事ってマズイんだよ。」
彼が学校に来てないのは入退院を繰り返していたからって事を知
ったのはもうちょっと後になってからだった。あたしにはいつもの
笑顔でただの結核だヨ、って言ってたけど。ただの結核で彼みたい
な人が泣くはずがない。いつも、一人で泣いていたのは昔から知っ
てた。
「初めておまえに会った時もおまえは空を見てたっけ。そんなに好
きなんか?空が。」
そう彼が聞いてきたのは肌寒い風が吹く秋のある日の事。
「嫌いじゃないよ。」
「……俺も。」
数少ない言葉でも、ちゃんと通じてた。あたし達は、そんな関係
だった。
「毎日がね、ただくだらないの。生きてるんだけど、生きた心地は
しないの。あんたといる時が一番楽しいよ、アタシ。」
そうぽつりと言ったアタシを彼は抱き締めた。
「もし…俺が死んだらおまえ、どうする?」
「アタシも死ぬよ。」
そう答えたアタシの唇に彼の唇がふれた。
「生きろよ。ちゃんと。お前の両手は何のためにある?お前は何の
ためにここに存在する? おまえの耳、目、鼻、口、手は…何を感
じるためにあるんだ?」
そうつぶやいたアタシから彼は離れた。そしてそれが彼の最後の
日だった。アタシは最後の最後まで彼の名前はわからなかった。
そして、何の病気なのかもわからなかった。
今日も、アタシは空を見上げる。彼が、アタシにいつもの笑顔で
空から手をふってるような気がする。
アタシの両手は何のためにある? 最近、考えるようになりまし
た。
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