第5回1000字小説バトル
Entry23
携帯電話でメモリーの000番に入っている彼女の番号に電話を 掛けた僕の左耳に飛び込んできた無機質な声。「電源が入っており ません・・・。」星一つ見えない曇った空に向けて延ばした改良ア ンテナを乱暴に折り畳み、人身事故停止中電車のおかけで立ち往生 したときの気分で街を彷徨いつつマルボロの煙をくゆらせる。何処 からか流れるジャパニーズロックバンドのチープな音楽と、運転手 のIQの低さに反比例するように高い車のエンジン音。その二つが 混じり合いアンニュイな空気を作り出し、僕の体を通り抜けて何処 へともなく消えていく。 街行くサウスアメリカン系ヘアスタイルをした色黒日本人のパワ ー漲る若者達。鼻と唇にピアスをした男と肩がぶつかってギリシャ 神話に出てくるメドゥーサの様な目つきで睨まれ、五年ぶりぐらい に全速で走って逃げた僕。禁断症状を起こしたアル中の唇のように 震える両脚の太股を癒すために立ち寄った暗い公園。人目を憚らず 恋愛モードに入った援交カップルと人目を憚って恋愛モードに入っ た中年ホモカップル。白いペンキで塗られたベンチに座り、段ボー ルの家を持つ方々と言葉を交わさず意気投合して援交カップルの若 い女の声のみに耳の全神経を集中させる。しかしどうしてもホモの 声を削れない。 そんな僕に正面から注がれる梅雨どきの空気のような生暖かい視 線。グッチとプラダとヴィトンとエトセトラのブランドの、服と鞄 と靴とエトセトラのアイテムで外見を際立たせて、あわよくば内面 までも煌びやかにしてしまおうと勘違いしている女。まるで蛙を見 つけた蛇のような舐め回すような目つきで僕を見つめる。僕もお返 しに舐め回すような目つきで彼女を見つめ、二人の視線が絹糸のよ うに絡み合う。それが口プレイという現実的意志を誕生させて壁が 崩れ落ちそうなホテルの入口を潜る。 さぁ舐めよう。いざ舐めよう。と意気込み彼女の股間に手を添え た瞬間に背中を流れる冷んやりした汗。堂々とした塔を見つめ再び 太股を痙攣させて走る僕。外に出て震える指先で携帯電話のメモリ ー番号〇〇〇番を押し、ルルルという呼び出し音が脳の動揺を沈静 化させた瞬間の野太い声のモシモシ。聞いたこともない男の声の後 ろで聞こえる「あっやば!」という彼女の声が僕にマグニチュード 9レベルの震えをもたらし、今日も平和な夜が更ける。
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