第5回1000字小説バトル
Entry29
あのさあ、ちょっと小耳に挟んだんだけれどさ。七月になると、恐 怖の大王が降ってくるんだってね。 降ってくるってどういうことなんだ。 やっぱりあれかね。傘は頑丈な物を用意しておいた方がいいのか。 鋼鉄の傘とか。 それよりさあ、前の日の天気予報はどうなるんだろうね。雨のマー クの代わりに怒った恐怖の大王のマークで一杯になるのだろうか。 森田さんも真顔で言っちゃうんだろうね。 「明日は全国的に、朝から恐怖の大王が降るでしょう。」 「恐怖の大王警報発令」 ところで恐怖の大王って、何なんだ。 恐怖って言うぐらいだから、よっぽど恐い顔をしているんだろうね。 和田勉と、どっちが恐い顔だろう。 でもさあ意外に恐怖の大王って、いっても実はぬいぐるみのように 可愛かったりしたらどうする。小さくて、アニメのキャラクタのよ うに甲高い声でさあ。 もしそうだったら、ちょっとは楽しそうだね。 普通の雨だと「ザー、ザー」とかいうけれど、この恐怖の大王は違 うよ。空から降ってきて口々に言う。 「イテッ!」「イテッ!」「イテッ!」と。 そりゃあ、空から落ちて来るんだもん、痛いよね。それもやっぱり、 甲高い声ね。あっちで「イテッ」、こっちで「イテッ」と叫んでい るんだよ。 そんな日は朝から街中が恐怖の大王で一杯になってさ、朝の通勤ラ ッシュと重なったら大変だよ。地下鉄に乗ると恐怖の大王ですし詰 め状態。 恐怖の大王がみんなで揃って、どこに行くのかは知らないけれどね。 と、いってもやっぱり恐怖の大王は一人なのかもね。だったら何も 心配することないね。今時、一人では何もできないなんてことは恐 怖の大王だって分かっているでしょ。ちゃんと心と心を通わせて話 し合いの席を設ければ大丈夫。 待てよ。大王っていうぐらいだから、何人かお付きの人がいるのか も。一人で来て「俺が大王だ」なんて言われても「あっ、そう」で、 終わっちゃうしね。 んっ、日本語が通じるとも限らないか。それに、日本へ目指してや って来るとも限らないのか。一体、恐怖の大王って何のことなんだ。 ひょっとしたらすごく身近な人のことだったりして。 例えば、買い物袋下げた“おかん”。 それが降ってきたら、それはそれで本当に恐怖だね。
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