第5回1000字小説バトル
Entry3
深夜。私は暗い4畳半で寝ている。風が立付の悪い窓を揺らしてい る。窓が揺れる度に、絵具の香いが私の嗅覚を刺激する。しかしそ れとももうお別れだ。私は死ぬのを待っている。 今日で10日も食事を採っていない。意識もだいぶ鈍くなってきた。 今日眠れば目覚める事はないだろう。私は定年を迎えてから油絵を 書き始めた。もともと絵は好きだったが絵心はない。しかし身寄り のない私にはこれが有一の生甲斐だ。金にはならないが生活に潤い が出る。しかし私は絵を描くのを止めてしまった。もういい、やり 残した事はない。後は長く生きるか短いかそれだけだ。今日も眠た くなってきた。これでもう目覚める事もないだろう。 私は考える事を止め、深い眠りに落ちていった。しかしその時窓が 揺れ、私の嗅覚が再び感覚を取り戻した。「そうだ!」私にはまだ やり残した事がある。私は最後の絵を描き終えていない。これだけ は完成させなくては!私は再び目覚めた。起上がる事は出来るだろ うか?体を起こそうとすると体の節々に痛みが走る。どうにか体は 動きそうだが、起上がると頭が朦朧として倒れそうになった。腕は まだ動く。私の腕は暗闇の中をさ迷い、天井から伸びる蛍光燈のス イッチに手を掛けた。蛍光燈は一定の周期で明暗点滅した。 私は切れかけの蛍光燈の光を浴び、絵の前に座った。蛍光燈は明暗 を繰り返していた。私には明かりが点くときに鳴る「コン」という 音が心地よかった。時間はそんなに掛らないだろう。2時間もあれ ば描き終る。それまで蛍光燈が持ってくれればいいのだが。私はそ う考えながら、最後の色をキャンパスに置いていった。そして3時 間が経過していた時、私は絵の前で深い眠りに就いていた。私の体 はバランスを崩し布団の上に転がった。それと同時に蛍光燈は明暗 を繰り返すのを止め、部屋に暗闇を落としていった。そして部屋に はカタカタと鳴る窓と、油絵のにおいだけが残った。
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