第5回1000字小説バトル
Entry39
立原涼子に対するストーカーの罪で逮捕され、”彼女の50メート ル以内、立入禁止”という判決を受けた。もしそれを破ったら、 今度は懲役か禁固はまぬがれない。気を付けなくては。 でも納得いかない。なんで俺がストーカーなのだ?ちょっと彼女 の後つけたり、マンションに張り付いてただけなのに。 その昔、深草少将は小野小町を口説くために99日間も家に通った という。俺のした事とどれだけ違うと言うのだ。 などと思っていると、遠くに涼子が見えた。こちらに向かって歩 いてきてるじゃないか。やばい。もうすぐ50メートル切ってしまう。 俺はあわてて涼子から逃げるように駆け出した。ブタ箱入りはご めんだ。 そりゃ、俺は周りから「融通がきかない」とか、「思い込みが激 しい」とか、「もっと頭を柔らかくしろ」とか言われる。だからっ て・・・。 ありゃりゃ、冗談じゃない。涼子がこっちに向かって走って来る。 俺は再びダッシュした。しかしどうも様子がおかしい。涼子は明 らかに、俺の後を追うようにスピードを上げて走ってくる。”涼子 の周り50メートルの位置にある見えない壁”に押し出されるように、 俺は走り続けなければならなかった。その内側に入ること、すなわ ち牢屋入りなのだ。 待てよ。涼子の狙いはそれなのか?俺をブタ箱に入れる事が目的 で、わざと近付いて来てるのか? 俺は彼女を引き離そうと必死で走った。しかし彼女はピッタリと 50メートルの距離を保ち、俺の後を追って来る。 このままずっと走り続けたらどうなるだろうか。いずれどこか日 本の端っこまで行き着き、海にボチャンである。俺は青くなった。 そんなのいやだ。その前になにか手を打たねば。 頭を使った俺は立体的に逃げることにした。距離を保って上に行 き、涼子のやつをやり過ごすのだ。ナイスアイデア。 名案だと思ったが、失敗だった。墓穴を掘ってしまった。俺は今、 東京タワーのてっぺんにしがみ付いている。50メートル下では同じ く涼子がタワーにしがみつき、こちらを見上げている。ニヤリと笑 って、(少なくても俺にはそう見てとれた。)彼女はゆっくりと俺 との距離を詰めてきた。 これではっきりした。やはりわざとなのだ。 地上から333メートルのここはとにかく風が強い。手もしびれて きた。 ついに力尽きて俺は手を離してしまった。 ああ、俺はとうとう涼子の50メートル以内に入ってしまった〜!
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