第5回1000字小説バトル
Entry47
少し妙な気もしたが、それほど不自然とも感じなかったのが、後 で考えるとなお変だ。親戚付き合いを疎んじた母の影響で、この年 になるまで会うことのなかった年下の従姉妹は、法事の会食の席で、 一同を前に膝を立てて皿を突ついていた。咎める者はなかった。遅 れて登場しながらも母親の紹介に身を委ねるだけで無言のまま向か いの席に着いた彼女に、微笑みかけてきっかけをと構えていたのも 拍子抜けになっていた。 「図書館に勤めてるの?」 招かれていた住職が声を掛けた。 「はい」 「どう、忙しい?」 「いいえ」 「どんな事してるの?」 「書類の整理とか…」 「あとは?」 「…」 「そうか。そんなようなことなんだ」 「はい」 無表情の上に薄い微笑の膜を載せたまま答える、化粧気の全くな い色白の顔から目が離せなくなったのはなぜか。彼女は母親に勧め られるまま、卓上の料理に箸を伸ばし続けた。 「もう奥さんなんだって?」 彼女の父親である、私にとっての叔父が赤ら顔で、話し掛けてき た。 「はい」 私は愛想笑いで答えた。 「前にお会いしたのは、叔父さんの結婚式のときです」 「やあ、そんなかあ」 「そんなです。御無沙汰してました」 隣の母は、私の口調に合わせて意味もなく笑った。兄弟の目論見 を内心恐れながらその場に臨んでいる彼女に、肩身の狭い思いをさ せたくない一心で、世慣れた会話をこなそうとする私の目の端に、 従姉妹が無心の表情で箸を口元に運ぶのが映った。 「ちょっとおかしかったでしょう。あの子」 駅の構内で特急を待つ私に母は言った。 「ああ、そうねえ」 土産にと母が買ってくれた昆布の箱を、用意してきた着替えを隠 しながら、ボストンバッグに入れていた私は、少しうわの空で返事 をした。 「分裂病なんだって」 私は母の顔を見た。 「だからなの」 「そう。でも、何かきれいだって感じだった」 「純粋すぎるのね。感じはいいのよ、だから」 出発時刻が近づいてきた。 「じゃあ、お母さん、あまり荒立てないでね。仲良く」 「ああ、はい。でも権利は権利なんだから。言うべきことは言わな くちゃ」 私は苦笑混じりに母に別れの挨拶をして改札を抜ける。跨線橋の 手前に電話を見つけた。腕時計で時間の余裕を確認すると、男の職 場に電話をする。出た相手に出鱈目の肩書きを付けて名乗り、取り 次ぎを頼む。受話器から流れてくるオルゴールの音色に、彼女の抑 揚のない声音が紛れているような気がして、思わず首を横に振った。
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