第5回1000字小説バトル
Entry48
「おじいちゃん、死ぬのは怖い?」 「そんなことないよ。人はね、死ぬとその人の一番望む世界、つま り理想郷に行けるんだ。だから、孝志も怖がらなくていいんだよ」 「ふーん」 「ピーピーピー」心電図の計器の音で目を覚ます。 夢を見ていたようだ。 あの時祖父は私を諭すためにあんなことを言ってくれたのだろう。 あの時の祖父の顔が忘れられない。 私は今、病院の小さな部屋の冷たいベッドの上にいる。部屋には 車の排気ガスと騒がしい騒音だけを取り込む窓があるだけだった。 今では、天井の細かなしみの数まで分かっている。 妻が来た。花の水を替え、りんごの皮をむき、たわいもない話と 心のない励ましを残して事務仕事を終えたOLのように家路に着く。 妻の私への愛はなくなってしまったようだ。一人息子の孝男なん て仕事を理由に一度もこない。みんな私の死期が近いことは、わか っているはずなのに… 私は逝くことにした。誰にも最後の言葉を告げず、ゆっくり目を 閉じた。 私は、死んだのだ。 ………どのくらい時間が経ったのだろう? 私は、死後の世界の扉を開けるべくゆっくり目を開けた。 あれっ? あのしみは……と思った瞬間大きな歓声があがった。 妻が私の手を握り顔を涙でぐちゃぐちゃにして喜んでいる。涙を見 せることをとても嫌がる妻を知ってる私は言葉も出なかった。右に 目をやると、息子が孫を抱えて流れる涙をおさえもせず、何かを孫 に必死に伝えている。孫の手には自分の体よりも大きいと思われる 千羽鶴がある。 私はもう自分の涙で何も見えなかった。 おじいちゃん。おじいちゃんの言ってたこと本当だったね。
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