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第5回1000字小説バトル
Entry53

Assist

作者 : 片山 芳宏
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エースの集団は行ってしまった。
ゴール30km手前から、各々のチームのエース達はアタックをかけ
始め、彼らは真っ先にゴールに飛び込む為に集団から飛び出して行
った。
俺の方は、レースを続けているたった一人のエースを後方の集団か
ら先頭まで引っ張って来た為、既に余力を使い果たし、かつては先
頭集団だった第二集団からも置いて行かれ、一人集団を追いかける。
コースは勾配と水平を交互に繰り返しながら、  5%ずつ高度を上げ
てゆく。喘ぎながらペダルを漕ぎ、既に見えない集団の背を想像し
ながら登る。
頭の中にリタイヤの理由が数瞬よぎる。このレースが調整レースだ
と言う事、エースの一人はステージ早々に降りてしまった事(単純に
考えればレースの勝ち味が減ったと言う事だ)、俺の本来の役割がエ
ースがパンクした時に素早くウィールを俺のと交換する事であり、
エースの自転車にトラブルが起これば素早く俺のを差し出す事だと
言う事、先程まで左膝に僅かなトウ痛を感じていた事、それから…

だが、無線でチームカーを呼び出し監督にリタイヤを告げる代わり、
エースの事を考える。エースはうまくやっているだろうか?

右の視界の端に自転車が入り、俺と並走した。後方から一人で追い
かけて来たのだろう。
「水を分けてもらえないか?」
声を掛けたレーサーは、テレコムチームのジャージを着ていた。ウ
ォーターボトルを手渡しながら考えた、確か、テレコムは先頭集団
にエースを二人送り込んでいたはずだ。
この男の名前は記憶に無いが、顔は覚えている。今日のステージの
半ばのダウンヒルで、ロッシのエースのアタックを潰した男だ。結
局そのエースはこの男が引っ張って来た集団に吸収された。
水を一口だけ含んで奴はボトルを返し、俺はそれを受け取り、疲れ
のためにバランスを崩さない様にホルダーに戻す。
男はこわばった顔の筋肉でようやく笑顔らしい物を作った。
「リタイヤするのか?」
「いや。」俺は明日も走るだろうか。「明日エース一人に頑張らせ
る訳にはいかないしな。」
微かに頷いたように見えた。
「急ごう。後ろに集団が来ているぜ。連中リタイヤ組だ。」俺は同
意し、ペダルの回転力を増す。
エースはゴールしただろうか?






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