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第5回1000字小説バトル
Entry55

希望の瓦礫

作者 : HCE
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文字数 :
 一昨日までは四百数十名と見られていたが昨日いっぱいで各地域
の病院で数千人の死亡者数が確認された。明日以降になれば増え続
けるこの地震の被害者はきっとその倍以上になるだろうと言われて
いる。軽傷で済んだ者も夜になればゆっくり休めるかといえばそう
では無い。何処からともなくやってくる盗掘団から自分達の財産を
また強姦魔の手から女子供達を守らねばならないのだ。比較的暖か
な土地であるのが不幸中の幸いか灯とする以上の暖は必要無い。
 妻に先立たれ思い出のペンダントを見つけられぬ男がいる。女中
先の主人から養育費をせがもうとしていたのにその主人が倒壊した
家屋の下敷きとなった為お腹の子供をどうやって育てようか悩んで
いる少女も。ここに何かを失った者だけが生き残った。悲哀疲労恐
怖疑問忸怩絶望無力空腹。全てがピークに差し掛かろうとしている
のを誰もが実存的に感じていた時、その男はゆらゆらと灯に近付い
て来た。皆あからさまに怪訝な顔になる。何しに来たんだい。赤い
目。しかしやせ細い陽気そうな男の風体に気を許す。皆の前で軽く
挨拶をする。炎の前に立つシルエットが突然のくしゃみ。現実感が
遠のく。
 大きなバンが瓦礫とは無関係にこちらへ近付いて来た。主人の顔
を忘れる筈が無く少女は立ち上がるしかし動く事はない。一同から
少し離れて車が停まるとゆらゆらと運転席から降りて来た恰幅の好
い中年はトランクから巨大な日本製の冷蔵庫を取り出した。ゆっく
り一人で降ろしている。誰もが唖然としているのを余所に二人で銀
のペンダントを共に握り肩を抱き合う男女。その周りでも不可思議
の再会が次々と広がり誰も何も疑わずただ涙を流している。突然の
銃声。男の一人が銜えた短銃で自殺をした。四つめの冷蔵庫を降ろ
し終わるとかつての女中へ近付く。宝石で鏤められた腕時計を外す
と両手で彼女の手を取りそれを握らせる。未だ見た事の無い微笑み
であったのにこの上なく懐かしいのは何故だろう。
 夜が明けて昨晩の事を憶えている者は居ない。そして当然男を憶
えているものも居ない。早く街を再建しようその思いが地震の哀し
みとは別に心地よい。無傷のまま死体で発見された男がいる。心臓
発作との事で処理された。






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