第5回1000字小説バトル
Entry57
何でも知っていそうな老人は実際に何でも知っているので、欲し いものを手に入れるのには彼に相談しなければならないというスト ーリー上の設定に沿って話を進める為に俺は、この白ヒゲを生やし た如何にも老人という様な老人に話し掛けねばならない。 「すいません。生きている石を探しているんですが」仙人を絵に書 いた風体に合わせてか岩ばかりの山奥に住んでいる。世捨て人、か。 「ほう生きている石とな?」 わざわざこんな処に庵を構える理由が俺にはどうも解らない。 「きっと『形を変えるもの』の事かの。あれじゃよ」と言って指さ した方向には、確かに一つだけ色の濃い、幅30cm程度の石が転 がっていた。俺は礼の言葉もそこそこずっしり重いその石を持って 帰った。 数日経っても数週間経っても石には何の変化も見られない。騙し やがったな。あの爺に文句を付けてやらねばと石を持って再び山奥 に向かう。 「あれの何処が『形を変えるもの』だ。ふざけるなよ」 噛み付く。 「何を言っておる。儂はふざけてなんぞ」いないと言う前に 「変わらないもの変わらないんだ。見てみろ、これを」 ため息を一つ。老人は少し困った顔をしながら哀れそうに呟く。 「儂はあれと言ったんじゃ。これはあれじゃ無かろう」 幾ら何でもこの程度の詭弁ではありがちな話になってしまうので、 別の結末を探す事にした。 爺を睨む。近付きながら俺は石を投げ捨てる。後ろで堅い物同士 がぶつかる音がした。 「あれの何処が『形を変えるもの』だ。ふざけるなよ」親指で背な 向こうの石を挿すと肘が力強く口を閉じた。 「儂はあれと言ったろう。ほれ見てなさい」指差す。 何を抜かしやがる。と言い掛けつつ振り向く。置いて来た石はい つの間にか小さな亀になっていた。 こんなのもありがちな結末なのかも知れない。だが、満足だ。
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