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第5回1000字小説バトル
Entry58

救済の技法

作者 : 蛮人S
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Website : http://www.geocities.co.jp/Technopolis/3057/
文字数 :
 女性が一人、駅ビルの片隅にある小部屋を訪れていた。
 中にはマイク付きの頑丈そうな機械と、据付の椅子が一つだけで
ある。厚い扉が炎暑と一切の喧噪をうち消す。
 ここへ入るのは初めてだった。女性は一瞬躊躇した後、機械のレ
バーを引いた。青いランプが点り、やがて落ち着いた声が彼女に語
りかけた。
「ようこそ、おいで下さいました。どのような事でもお話し下さい」

 女性は就職活動に疲れた学生だった。今日の面接官は彼女の言葉
尻を一つ一つあげつらった末、帰し際に彼女の容姿に関する侮蔑的
な言葉を投げつけた。採用する意思は第一印象から失っていたらし
い。帰り道の路上、どこかの子供の持っていたアイスクリームがす
れ違いざま彼女の服に触れた。気が付くと彼女は子供の頬を打って
いた。抗議する母親には汚い言葉を浴びせていた。それは先刻、面
接官に投げられた言葉と同じだった。

 女性が話す間、機械は時々相槌を打ったりするものの、それ以上
の反応はなかった。それでも彼女は、胸のつかえが少し下りた気が
した。
「またいつでもおいで下さい」
 扉を閉じかけた女性は、つい機械にお辞儀して苦笑した。


 そんな部屋が、世界の随所にある。
 誰が、いつから設けたのか分からない。部屋は、人種、宗教、環
境、国の貧富を問わず至る所にあった。内戦に荒れ果てた街の瓦礫
の陰でさえ、それは何気なくそこにあり、誰かしらの声に耳を傾け
ていた。
 部屋の裏からは回線が延びている。
 回線は山を潜り、砂漠を越え、南へ南へと延びていく。赤道を過
ぎ、海溝を渡り、周囲が氷に閉ざされる辺りから、集まった無数の
回線は一点へと収束する。
 悲嘆、怒声、憧憬、怨嗟、
 逃避、愛欲、遺恨、悔恨、慕情……
 全ての言葉が、氷原の底へ、ゆっくりと流れ落ちていった。

 南極点、地下百八十メートル。
 凍てついた地盤の底で一基のコンピュータ施設が低く穏やかな唸
りを響かせている。
 冷たい半透明のパイプの中を、様々な色の言葉が、光のかけらと
なって降ってくる。光は次第にゆっくりと、雪のようにパイプの底
に降り積もり、深い藍色の結晶となって層を成していった。幾日か
経つ毎に、結晶は再び輝きに変わり始める。輝く結晶は昇華してパ
イプを遡り、やがて一条の青い閃きとなって極光揺らめく空へと放
たれていった。
 今しもまた一つ青い矢が、地球の公転面を静かに離れ、系外宇宙
へと消えていく。
「ようこそ、おいで下さいました……」






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