第5回1000字小説バトル
Entry6
彼は、素晴らしく人気のある作詞家であった、、、、、。 過去形にするにはわけがある。 この小さな事件はある日、彼がいつもどうり、机に向かい仕事に取 り掛かっていた時に起こったものである。 『、、、、、、、て。』 「ん?」 彼はどこからか喋り声のようなものを耳にした。どうやら原稿用紙 が置いてある場所から聞こえてくるようである。もう一度よーく耳 をすましてみた。 『、、、、て。書くのをやめて。もうそれ以上詞を書かないで。』 「なんだあ?」 原稿用紙が喋っているのである。彼は自分の目を何度もこすり、疑 った。 『お願い、もう詞を書くのをやめて。あなたの詞には以前のような ぬくもりがないのよ。表面では愛を語っているけど、中身はとても 冷たいわ。このままでは私がダメになっちゃうわ。お願い、早いう ちに、違うわ、今のうちに、詞を書くのをやめて!!そうしないと、 あなたが、あなたが、、、、、!!!』 原稿用紙が力説している。一番の相棒が『やめろ』と言っている。 彼は誰かのいたずらか何かだろうと思って、机の上の原稿用紙に向 かってきつく言ってやった。 「俺の詞の何処が不満だというんだ!!俺の詞は書くたび、書くた び大ヒットするんだ!!一般人ばかりか、科学者までもが俺の詞を 『疲れをいやす効果がある』と絶賛するんだぞ!!お前になんと言 われようが俺は書く。わかったか!!」 『お願いだから私のいうことを聞いて!!!お願いだから、、、、 、!!』 もはや原稿用紙は涙声であった。 「うるさい奴だなあ、これ以上俺の詞にケチをつけたらお前がどう なるかわからないぞ!!」 『ケチなんてつけてないじゃない!!ただ私はあなたに、これ以上 詞を書くのをやめてほしいだけよ!!』 「くそおおお!!その口利けなくしてやる!!!」 『あ、だめ!!!そしたら、あなたが!!あ、、、、、!』 びりびりびりびり、、、、、。 数時間後、彼がなかなか部屋から出てこないので、彼の妻が心配し て彼の書斎まで見に行ってみることにした。 ドアをノックし、妻が入った。 「あ、あなた、、、なの??あ、あなた、、、。」 その部屋で妻が見たものは前進が黒でおおわれ、耳がとんがり、大 きな翼のはえた、何かを失った夫の姿、、、、、。 『ぬくもり、、、、ぬくもり、、、、ぬくもり、、、、』 そして天使は、己の翼をはばたかせたのであった。
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