第5回1000字小説バトル
Entry62
舞台の最終練習が終った。今日は、疲れた。けれど仕上がりは、 上々かな。大道具を運んだロングボディーのライトエースに乗る。 運転は、ペーパードライバの舞台監督。渋滞なの。六本木を抜けら れない。さすがに、金曜の夜は、厳しいのかな〜。地理不案内につ き膝の上に地図を広げて、ペーパードライバ運転手のナビをしてる の。六本木って、上りと下りの繰返しね。上り坂での渋滞、きつい な〜。運転の腕も心配だし・・ 疲れてるし。少し眠たい。 「ええっつ? 車下がってない?、後ろに下がってない?」思わ ず声が出た。気づいた彼があわてて、ブレーキを深く踏みこむのが 分かった。その時、助手席の私だけ、気づいた。ミラーに写った後 続の黒いベンツから人が降りて来るのが。その男、私達のライトエ ースの後輪蹴って、こっちに来る。私達の車、後ろに下がったから 怒ってるんだ。彼、気づいていない。その男、助手席の窓から、私 達をのぞき込んだ。そして、凄んだ。 「ちょいっと、車 ぶつかったみたいなんだけどな〜あ。」ドスの 効いた声だ。突然のことに動転して、運転手の彼、謝る。このライ トエース彼の親戚の工務店から借りてきたから、荷台の横にで〜ん とお名前と電話番号が入ってる。からまれたら、逃げるのは、大変 だ。だから、平謝り。けれどその男、割と紳士、野蛮っぽくない。 坂の上の信号が青になって、前の車が進んだ。彼、観念して言った。 「他の迷惑になるから、車、端に寄せますから・・」 でも、男は言った。 「まあ、ええや。気をつけて行けや。 俺、六本木で、やくざやっ てるんやけど」 男は、衝撃のセリフを残して、そのまま自分の車に戻った。私達、 ドキドキしっぱなしだった。彼、結局、坂道発進3度も失敗した。 下がらないように張りつめてるからエンストしてる。3度目、思い っきり吹かしてサイドブレーキを戻して、車をやっと前に出せた。 動揺してる上に、馴れないフロアから伸びてるサイドブレーキだか らなおさら下手くそな運転。どうにか帰れそう。良かった。 ちょっと怖すぎたな〜。 私、思ったけど声に出せなかった。 その男、私達をのぞき込んだ時、フッと表情が和らいだのに私、 気づいていた。 がりがりに痩せてる色白の彼と、地図覗き込んでる色気ない娘が相 手じゃ男のプライドが許さなかったのかもしれないなと思った。 きっと「やくざ」としての。 良かった。これなら初日の幕、開けられるね
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