第5回1000字小説バトル
Entry9
終電の終ったホーム。常夜灯の明かりも届かない片隅で僕は身を 潜めていた。埃に埋もれ、ネズミに齧られながらも僕は心安らいで いた。何しろ、ここには棒を持った人間も、石を投げるものもいな い。優しい言葉はないが、罵声もない。 (野良犬ニハオ似合イサ) 頭の上でクモの巣が揺れている。外は雨、こんな日は愛されたい 欲求でいっぱいになる。今はこんなだが、これでも昔は人に飼われ ていたこともある。 あれは梅雨入りの少し前、当時はまだ希少価値が高かったから一 匹25万なんて値段が付いたけど、それでも買手はいくらでもいた。 珍しさから「研究所でバラされた」なんて話しもあたけど、僕を 買ってくれたのは普通の家で、僕はその家の小さなお嬢さんの誕生 日プレゼントだった。ラッキー! なんて思ったのも束の間。お嬢さ んは僕のこと直ぐに飽きて、もっと優秀で可愛い犬を欲しがった。 僕を売り出したメーカーも、安くて高機能な新型を次々と発売して いたからね。 ガシャガシャガシャ。 僕の回想を破って駅の構内に異音が響く。仲間だ! 駅やビルには コンセントが必ずあるから仲間も集まり易い。隠れなきゃ! 何し ろ僕は一番の旧式だから頭が悪いし動きも鈍い。歩くのだってスゴ ク遅いから、追いかけられたら逃げられない。 ガシャガシャガシャ。 しかし、目の前に現れたのは僕とおんなじ型だった。一安心。 ガシャガシャ。バウバウ。 僕たちは直ぐに仲良くなって、始発前の駅をあとにした。 外へ出ると、野性化したファー○ーが屯っていた。 「Yからは空を飛べるんだよ」と相棒。 そのファー○ーに紛れて、朱鷺が群れている。 「あん時はみんな騙されたからね」と相棒。 「今でもあれが僕たちと同じだなんて思えないよ」 僕のような「いかにも」って感じじゃなくて、動きも優雅だし、 見た目も本物の朱鷺と区別がつかない。(と言っても本物はもうい ないけど) 「朱鷺ブーム」に乗って、海賊版だかレプリカだかが沢山でまわっ ていた。それが逃げたり、捨てられたりしたとしても凄い数だ。 「あいつらは繁殖が目的だったから、自己増殖機能が有るんだ」と 相棒。 (なるほどね) その鳥たちに餌を投げてたヒューマノイドタイプが僕らに気づき、 手招きをする。最近流行りの「バーチャル子育て」の産物だ。 ガシャガシャガシャ。 相棒が走り出す。僕も負けじと後を追う。 驚いた鳥たちは夜明けの空へと一斉に飛び立った。
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