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第6回1000字小説バトル
Entry12

博士の遺書

作者 : 3吉
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 新薬開発の世界的権威の蛇蠍博士が亡くなった。遺書は二通、一
通はもちろん家族に、もう一通はマスコミ宛てだった。表に「マス
コミ各位」と書かれたその遺書は日本中を驚愕させた。
「…さてここで私は皆さんに謝らなくてはなりません。私はある事
実を今まで隠していたのです。ポルターガイストと呼ばれる現象、
あれは私、正確には山田君の仕業なのです。
 私がまだ若かりし頃、当時は金も名声もありませんでした。私と
山田君はある企業から頼まれ、新薬を開発していました。期限が厳
しかったのですが、昼夜を問わぬ努力によってそれは八割方完成し
ました。しかし、期限前に依頼した企業がキャンセルしてきたので
す。その夜、私は一人研究室で酔い、多数の薬品を加え、新薬を目
茶苦茶にしました。
 次の日、山田君は誤ってその薬を飲みました。慌てた私は急いで
治療薬を作ろうとしましたが、所詮成分が不明になった薬、治療薬
の開発は一向に進みません。それどころか、次々と治療薬を飲んで
いた影響で山田君は声が出なくなってしまいました。
 山田君は失意のうちに研究室を出ました。そして、時に悲しみに
耐えられず、人の家で暴れまわったのだと思います。それが巷で言
われているポルターガイストの真相なのです。山田君など居なかっ
たと反論される方もいるでしょう。居たのです。山田君は成分不明
の薬を飲んで、光を完全に透過する身体、つまり透明人間になって
いたのですから…」
 この内容は週刊誌やテレビによってあっという間に日本中を駆け
巡った。気の早い週刊誌などは今後「ポルターガイスト」を「山田
君大暴れ」と表記すると発表した。

 その頃、蛇蠍家では一人息子の洋が父親の遺書を見ていた。
「…さて、今後の借金返済だが、洋、お前はいくつかの超常現象を
透明人間山田君と関連付けて話しなさい。それによってお前は超常
現象の番組でコメンテーターとなれるし、本も出版できるだろう。
 もちろん、透明人間山田君など存在しないので、お前は結果的に
嘘をつくことになる。しかし、その事で自分を必要以上に責めたり、
恥じたりすることはない。確かに真実を追究するのも大切だが、お
前の発言によって人々は未知の物に対する想像を楽しむことができ
るのだから…」
 窓から風が入り、開いていたドアが大きな音をたてて閉まった。
洋はそちらの方を向き、山田君、ドアは静かに閉めなさいと言って
カカカと笑った。






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